サイン計画

サインと照明のケーススタディ~サイン編~辻井 勝
ピースタイル代表

 

サインの役割


展示会での「サイン」といえば、まずブースに掲出される企業名や商品名を連想します。
これは「誰が出展しているのか」という看板であり、展示会来場者はこのサインを目当てにそれぞれの企業ブースにたどり着きます。
言い換えると「サイン」がなければ、そのブースはどこが出展しているのかすら不明になることもあるのです。
そして「展示会」という特殊な場での「高揚感」や「期待感」の演出にも、サインは重要な役割をもちます。
工夫のないサインでは来場者への充分なアピールもできず、来場したであろう潜在顧客の来訪を逃すことにもなるかもしれません。

その重要な「サインの工夫」について、よもやま話も交えながら考えてみたいと思います。

サイン(標識・看板)というものは言うまでもないことですが「意味をもって設置される」ものです。

ここでの”意味”とは「見た者に行動を”促す”内容」です。
促したい行動としては「してはいけない」「してほしい」という直接的なものや「ここにある」「あそこにある」という位置表示などの間接的なものがあります。

展示会でのサインは、街での店舗看板のように出展ブースの主体を表示するために掲げられ、「ここに出展している」という「行動を促す=来訪してもらう」ために設置されるものであり、屋外サインボードなどへの単なる商品名・企業名の掲出とは違った工夫が有効となります。
その工夫には奇抜さやカッコよさなど必要ありません。

「見つけやすさ」と「分かりやすさ」、さらには「来場者からどう見えるか」「見た来場者に何をしてもらいたいのか」という視点でのサイン計画が必要なのです。

 

見つけやすさと分かりやすさ


まずサインは「見て」もらわなければ意味がありません。
言い換えれば「見て分かりやすい」サインを「いかに見つけやすく」設置するかが重要なポイントです。

では、目に飛び込んでくる視覚情報の「分かりやすさ」とはどういうことでしょうか。
人間は自分の目で見たものを一時的に記憶し、それが「自分にとって意味のあるものかそうでないか」を振り分けます。
その振り分けに時間や手間がかかるものより、かからないもののほうが「分かりやすい」といえるでしょう。
たとえば信号機のように「記憶された形と色」に基づいた表示であれば、表示された意味を理解するのに時間や手間は少ないのです。
これに比べて、文字情報を読まなければならない掲出物であれば「読んで意味を理解し、それに対しての判断をする」ことが必要になるため、信号機の表示よりも時間と手間が必要になります。

≪記憶された形と色≫

さて、車いすマークや非常口の表示のように、絵を用いた「ピクトグラム」は直感的に手早く意味を理解してもらうために有効です。
展示会場での企業名や商品名のサインにも、通常の広告露出で使用されているロゴなどを使えば、その『記憶された形と色』によって見る側の認知処理が早くなります。

展示会来場者というのは、そのカテゴリーに興味がある層です。
企業の通常広告を他の層よりもよく目にし、ある程度商品や企業の情報ももっていると考えられます。

前述の『記憶された形と色=通常のロゴ使用との整合』に加えてさらに「目新しい」演出手法での掲出の工夫などで「来訪してもらう」度合いを強めることもできるでしょう。
その対策としては、サインに向けて照明を当てたり(外照式)、内部に照明を仕込んだり(内照式)することで「見つけやすさ」を向上することができます。

≪見つけやすいサインとは何か≫

「見つけやすい」サインとはどういうものでしょう。

街を歩いていて「目に入りやすい」サインを思い浮かべると「大きい」「鮮やかな」「強い」サインだということに気がつきます。たとえばビルの屋上などに設置されている、商品広告のサインボードなどは物理的に「大きい」し、ネオンサインなどの明滅する表示や、電光掲示板を流れるニュース情報などは「強い」視覚情報でしょう。そしてモノトーンよりも「鮮やかな」色彩を使ったサインのほうが認知されやすいのです。信号機にLED(発光ダイオード)が使われるようになったのも、高輝度な光による視覚的な強さと鮮やかさのためです。

さて、展示会場の「地明かり(施設照明)」はそれほど明るいものではありません。ブースに大きく企業名や商品名を掲出しても、そのサインが暗くて見えにくければ見つけにくいでしょう。

その対策としては、サインに向けて照明を当てたり(外照式)、内部に照明を仕込んだり(内照式)することで「見つけやすさ」を向上することができます。

さらに、LEDなどを活用してサイン自体を発光させるものもありますが、要は「見つけやすい明るさ」をサインに与えることが重要なのです。

照明の明滅や、LEDのリレー操作によってサインの照明に「動き」をつけることも見つけやすさを増強します。ブースの上空への企業名バルーンの掲揚なども、動きのあるサインの一つといえます。

これらの「サインへの照明演出」は、企業名や商品名だけでなくブース内の各コーナーサインなどでも有効でしょう。

 

サインは来場者とのコミュニケーション

 展示会での積極的な「サイン=表示」の設置は、来場者の「判断する手間」を省き、会場での「スムーズなコミュニケーション」につながります。

「これは何であるか」ということをサインの文字で表示しておけば、来場者が「これは何ですか?」と聞く手間が省けます。それを逆手にとって「これは何ですか?」と聞いてもらうためにサインを掲出しない企業ブースもあるようですが、これは考えすぎです。「面白さ」を優先して忙しい展示会来場者の手間を省くということを二の次にするというのは、現代的な考え方ではありません。


≪展示3点セットにキャプションサインを≫

ブース内のサインとしては、展示物群ごとのコーナーサイン、展示品ごとの商品名サイン、さらに商品の訴求ポイントを簡潔に説明するキャプションサインがあります。

最近、コーナーサインは「ソリューション」ごとなどの切り口で作られるものが多いようです。出展者側からは理屈が通った表現だとしても、それが来場者に伝わらなければコミュニケーションとして成立しないこともありえます。

展示商品ごとのサインと解説パネル、そしてその商品に関する配布物は「展示3点セット」と呼ばれるディスプレイ要素ですが、これにぜひ加えたいのがキャプションサインです。

従来のキャプションパネルのように仕様や型番の表示だけでなく、そこに商品カタログや解説パネルのアピールのポイントをまとめて表示することで、来場者への訴求力は格段に向上します。さらにブーススタッフが共通のユニフォームを着用したり、名札をつけたりすることもブース内のサインの一種だと考えられます。そのユニフォームに企業名や商品名があれば、来場者も声をかけやすくなります。つまり名札をつけないブースで「誰も声をかけてくれない」と不満を漏らしているだけでは短い開催期間を無駄にしているのと同義です。

これらブース内のサインの重層的な活用によって来場者とのコミュニケーションを深められれば、ひいては引き合い獲得や好感度の向上につながるのです。

 

サインのデザインについて


同じ内容を表示しても、サインのデザインや掲出方法によって「見る者」への印象の与え方はかなり変化します。たとえばサインのデザインについて、面白い例があります。
左ページ下の図は「誰でも知っている図形」の代表、日本の国旗です。図の上から、白地の部分と赤い丸の大きさの比率を変えてあります。

いちばん上の「小さな日の丸」では貧弱で安っぽい感じがしますが、丸が大きくなっていくと「安定感」を増し、さらに大きくなると「押しつけがましく」なります。内容としては同じ日の丸なのですが、図と地のバランスで伝わる意味合いが変わってきます。これはデザインによる表現の変化のシンプルな例ですが、展示会という特殊な場所と場合を考え、掲出するサインの視覚表現により「印象」を意図する方向に変えることもできるでしょう。

≪色彩(カラーリング)もポイントの一つ≫

デザインといえば、サインのカラーリングも重要なポイントです。企業名や商品ロゴでは掲出仕様が決められている場合が多いのですが、その背景や演出照明で表現が変わってきます。たとえば色彩のもつ特質として、明度や色相、彩度や補色など様々な対比によりそのデザインの印象は変化します。これらの対比による表現の変化を理解しておけば、サインだけでなくブース内の色彩計画などにも応用できます。

デザイナーにとっては当然の知識なのですが、出展担当者が理解していればブース設計が精緻化されるでしょう。

脳に入ってきた様々な刺激は、ある程度の差がないと判別できません。たとえば同じ明るさの光を2つ並べて、片方の光を徐々に強めていくとあるところで「片方が明るい」ということに気がつきます。この、気づくまでの「ある程度の差」のことを「弁別閾(べんべついき)」と言います。

視覚であれ聴覚であれ人間の感覚にはこの「弁別閾」が存在します。その「ある程度の差」は、もとの刺激が強ければ強いほど幅(閾値)が大きくなります。たとえば40グラムと41グラムの重さの差を感じるよりも、80グラムと81グラムの差を感じる方が難しくなるのです。

展示会の会場はサインで溢れています。来場者は会場を回る間に多くのサインを目にし、その視覚情報に対する瞬時の判断を繰り返しています。展示会に慣れている人でも、次第に疲労してくるでしょう。疲労は弁別能力を低下させます。正常な弁別能力で設計されたブースのサイン計画でも、疲れた来場者にとってはふさわしくなくなることも起こるのです。

それでは展示会場での「良いサイン」とはどのようなサインなのでしょうか。以下、写真で例を挙げてみましょう。

以上の例のように、「良いサイン」は表示目的がしっかり考えられて作られ、設置されていることが分かります。

 

サイン計画のチェックリスト

冒頭で、展示会場でのサイン計画は「来場者の視線」で考える必要があると述べました。

この「来場者の視線(来場者インサイト)」で自社のサイン計画をチェックしてみることをお勧めします。

以下に、弊社のもつチェックリストからの抜粋を記しておきます。満点が取れないようであれば対策が必要でしょう。

このチェックリストを活用して、開催中に自社社員たちで開催状況のチェックも行ってみましょう。

出展担当者の思惑とまた違った意見や、上手なサイン計画のヒントが掘り起こせるかもしれません。

展示会での「良いコミュニケーション」の記憶は、展示会以外での企業活動にとって大いに役に立つものです。みなさまの出展のご成功を、心より祈っております。