【それいけイベントアプリ道】 〔第1回〕学術会議編-スケジュール管理から館内誘導まで-

【それいけイベントアプリ道】
〔第1回〕学術会議編-スケジュール管理から館内誘導まで-

<インタビュー>

(株)マイス・ワン
シニアマネージャー清澤 浩明氏

テクニカルリーダー高橋 理史氏

 

【最新動向】新機能を導入

7月24日から26日までの3日間、名古屋国際会議場で循環器系の大型医学会が開催された。同学会は、学会員からの応募演題数が1320題と過去最多となったほか、多数のシンポジウム、パネルディスカッションや特別講演がなされた。

こうした膨大な数の演題や、多彩な構成で展開される学術会議では、従来、演題の概要や日程表が印刷された数百ページにわたる抄録本がガイドブックとして配布されていたが、Web検索ができるようになり、さらに3、4年前からはアプリ版が開発され、スマートフォンやタブレット端末で持ち運びができるようになった。

学術会議用のアプリ開発をいち早く進め、今回の学会でも新機能を付加したアプリをリリースしたマイス・ワンのシニアマネージャー・清澤浩明さんは「近年、多くのイベント用アプリが開発されはじめていますが、国内の学術会議の世界では、2011年が一つのスタートラインではないかと思います。弊社では、これまでに100本近くの学術会議用アプリ『Myスケジュール』をリリースさせていただき、数多くの便利な機能を付加してきました」と説明し、テクニカルリーダーの高橋理史さんとともに学会アプリがいまどのような発展をみせているのか教えてくれた。

■ビーコン技術採用で
館内誘導もスムーズに

『Myスケジュール』の最も基本的な機能の一つに、来場者が聴講したいセッションや演題を検索し自分のスケジュールとして登録し、学会期間中のオリジナル予定表を作成する機能がある。「いつ、どこで、誰の演題が発表されるのかを簡単に見つけたい、そしてそれを聴き逃さないようにしたい」と言うニーズに応えるもので、『Myスケジュール』開発のきっかけにもなった機能だ。この基本機能を実現した後、次に多くの要望があったのは、来場者のスムーズな移動をサポートする機能だった。「最寄駅から会場までのように屋外の移動支援についてはスマートフォンに標準装備されるGPS機能を使って実現できましたが、屋内の移動支援については衛星からの電波が届かないため実現が難しく長年の課題でした」と清澤さんは振り返る。

上述の医学会では、この課題を解決するためにビーコンという最新の技術を採用し会場内の移動を支援する機能を実現した。ビーコンとは予め設定したIDを微弱な電波に乗せて発信し続ける発信機のことで、これを会場内の講演会場や展示ブースに設置し、この微弱な電波を受信したアプリ側は関連する会場名やその会場で開催されるセッションや演題等の情報を表示するという仕組みだ。現段階では来場者を誘導する機能にまでは至っていないが、将来に向けた大きな一歩を踏み出せたと考えている。

■ツイートの表示で
コミュニケーションを可視化

さらに今回の医学会で初の試みとなったのが、「ツイート投稿」機能だ。『Myスケジュール』から投稿されたツイートが会場内のスライドに表示され、演者と聴講者とのコミュニケーションが可視化できるというもの。学会という登録者のみが集まる会場内で提供するサービスのため、部外者によるツイートが流れる心配はなく、その場で質疑応答や意見交換がリアルタイムで展開される、よりインタラクティブで濃厚なコミュニケーションが実現された。

学会アプリ2011年からニーズ高まる

清澤さんは、学術会議のアプリ開発は、欧米からはじまり、日本では2011年ごろから本格的に導入されたと話す。学術会議は、各国持ち回りで開催されるため、海外の会議に参加する先生方も多い。「日本でもこんな手法はできないだろうか」と相談されることも多く、また海外出張した社員からの情報も含めて常に最新動向を取り入れ、発展させてきた。

2007年のWebベースの『Myスケジュール』開発が、アプリの前身だ。抄録集を電子化し、お気に入りセッションや演題に付箋を貼るような感覚でブックマーク機能を付けたものが『Myスケジュール』に進展し、聞き逃し防止のアラーム機能を付加するなど機能を向上させた。

2010年のスマホ元年とともにスマホアプリの市場調査を開始し、2011年に初のスマホアプリをリリース。次第に機能を追加し、年間の利用件数も導入から4年で10倍以上に増加している。「アプリはダウンロードしてもらうことが課題と言われていますが、徐々に変化してきています。初めてのアプリリリース時には、スマホ普及率もいまほどではなかったためダウンロードは参加者の15%程度でした。最近はスマホの使用が主流となり海外からの参加者が多い大型国際会議などでは、会議参加者のほぼ半数まで増加しています」(高橋さん)

アプリ開発は、自社で基本設計をし、リリースするケースがほとんどだが、昨年東京で開催された「ITS世界会議 東京2013」では、電車の乗換案内、自動車ルート検索、徒歩ルート案内を得意とするNAVITIME(ナビタイム)と協力し、アプリ間連携を実現した。

「こうした連携により、会期中の開催情報だけでなく、プレ/アフターコンベンション情報、たとえば食事やカフェ、名所などの観光的な要素も付加することができました。結果として特に海外からの来場者の利便性を飛躍的に高めることができました」(清澤さん)

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、さまざまな分野でこれまで以上に情報のアクセシビリティが求められるようになっている。アプリ開発は、その解決ツールとして期待される。

清澤さん、高橋さんは、「多様性への対応に、アプリが貢献できることは多いと感じている」と話し、日本発アプリを海外でも活用してもらいたいと、海外進出へも意欲的だ。