映像・音響・PC関連機器のレンタル会社38社と、これら機材のメーカー19社で組織する日本映像記事レンタル協会(JVR協会)は10月12日、愛媛・松山で恒例の総会を開き、新会長に大村一彦氏(映像センター代表取締役社長)が就任した。日々進化する機材を操り、MICEやエンターテインメントの世界に大きな感動とコミュニケーションを生み出す映像業界。そこに起きている変化と協会の今後について聞いた
――JVR協会の会長に就任された、いまのお気持ちと抱負を
大村 就任前の9月18日に、光和の創業者である小泉完司元社長のお別れの会がございまして、私も参列しました。そこで、まさに小泉さんが発起人となって創設されたJVR協会のエピソードや回顧録を見せていただきました。当時の先輩たちは、日本に映像機材レンタルという新しいビジネスを生み出し、映像の素晴らしさを多くの人に伝えようと、たいへんな苦労のもとに、いまの市場を創り上げました。このたびJVR協会の会長に就任して、いちばんはじめに思ったことは、この先輩方の情熱を忘れてはいけないということでした。あの方たちの努力によって、いま私たちはひとつの業界として社会に貢献している、社員が食べていけるのだと。そういったJVR協会の歴史をしっかり、恥じないように継承することが、私の役割だと思っています。
――大村会長になって若返りも図られたと思いますが、そのことは、どうとらえていらっしゃいますか
大村 確かに若返りを図るということも、協会のひとつの方向性だったとは思いますが、私はまだまだ経歴も、協会の理事としての経験も浅いですから、副会長や理事をはじめ、周りのみなさまに支えていただきたいと思っております。ただ、私の会社(映像センター)も小泉さんたちとともに、志をもって協会をスタートさせたメンバーのひとつですので、私個人というよりは、そうした歴史や会社の看板も背負ったうえでの会長職だと思っていますし、そこに強い使命を感じています。確かに歴代の会長に比べると若いかもしれませんが、だからといって、何か大きなことをやろうとは考えていません。しっかり責任をまっとうして、協会の発展に貢献したいと考えています。
――当面の活動として、何か考えていることはありますか。
大村 具体的なことはこれから決めていきますが、私のひとつの考えとして、現場でいっしょになるような、われわれと近い業界の方たちとの関わりを深める必要性を感じています。たとえばシースルーLEDやムービングプロジェクタといった機材の進化、また3Dビデオマッピング(=プロジェクションマッピング。以下マッピング)に代表される、新しいビジュアル演出の登場によって、われわれ映像屋と照明、電飾、舞台装置といった業種の仕事がボーダレスになってきました。こういう業界の人たちと交流し、情報を共有することで、お互いのレベルアップが図れると考えています。
――他団体との公式的な交流は少なかったかもしれないですね
大村 今年は、日本展示会協会(日展協)の総会後の懇親パーティに、来賓としてご招待いただきましたが、とても良いことだと思います。このように他団体と交流する機会を増やして、JVR協会と私たちの仕事のことをもっと知っていただきたいですね。そのための宣伝マンに私はなりたいと思います。
――協会の活動については
大村 これから幹部の方たちと考えていくことですが、各社が忙しいなか、どこまでできるかというのはあります。現在の行事は、10月の総会と7月の業務担当責任者会議(業担)、6月のInfoComm(米国で開催される映像・情報機器の展示会)視察ツアーなどがありますが、個人的には、もう一つぐらい何かあってもいいのではと。たとえば業担では、InfoCommの視察レポートを、参加者の一人にやってもらっていますが、もっと突っ込んだ「こういうものを業界として取り入れなければ」とか「こういうスキルを身につけるためにどうすればいいか」という勉強会のようなことに発展させられないか。実際に見てきた人たちが、現地で感じたことを熱いうちに語り、より多くの会員に伝える機会を増やせたらと思います。
――会員のメリットになりますよね。現場スタッフのレベルアップを図るためには、協会による人材育成が大切だと思います
大村 我々の仕事は、常に最先端の機材を追いかけていなければいけませんから、InfoCommのような展示会を体験することは、会社にとっても現場スタッフにとっても大きなプラスになります。「これからはこういう機材が必要になる」ということはもちろんですが、「業界としてどれだけ必要になるか」ということも、仲間同士で考えなければいけないと思うんです。高価な映像機材を一社で持てる数は限られますし、どれだけの需要が見込めるかということも判断が難しいですから、協会の仲間同士で情報を交換しあって適所にシェアすることで、業界としてのスケールメリットを得られることもあるのではと。オリンピックのような大規模なイベントは滅多になくても、マッピングなどでかなりの数のハイエンド機を使う事例も出てきています。そういうときに「JVR協会なら、会員同士のネットワークですぐに揃えられますよ」とアピールできるようになりたい。
――せっかくの大イベントなのに、機材もスタッフも海外からもってきました、なんてことにはしたくないですよね
大村 これからはそういう案件が増えるかもしれません。JVR協会の会員は、仲間といってもコンペジター(競争相手)なのですから、その辺は誤解のないようにしていただきたいのですが、海外のパワーが押し寄せてきたときに、われわれは日本のイベント映像業界を守れるのか。結束すべき時もあると思います。
――現場スタッフのスキルアップも必要ですね
大村 機材以上に、演出手法やトラブル対応といったスタッフのスキルに頼る部分が非常に大きいことも、われわれの仕事の特徴です。その部分は各社それぞれ、工夫と訓練を重ねながら、独自に磨いているのでしょうが、広い意味での人材育成に協会として取り組んでも良いのではないかと思います。
――機材とか映像のスキルだけでなくということですか
大村 あくまで個人的な考えですが、われわれのスキルの幅を広げるという意味では、たとえばCPA(日本コンベンション事業協会)さんとか日展協さんがやっているセミナーなどに、協会として参加者を募るとか、逆にわれわれが行う勉強会に来ていただくとか。相互にメリットが出てくるのかなと思っています。
――いまテレビの製造などに見られるように、メイド・イン・ジャパンがかつてない苦境にありますが、みなさまの世界ではどうなのですか
大村 日本のメーカーは確かに苦戦していますね。特にハイエンドのプロジェクタなどは海外メーカーが圧倒的なシェアをもっていますし、中国製にもしっかりした品質の商品が出てきました。ただ、それでもやはり日本製のように安心して使えるモノは少ない。だから、JVR協会のメーカー会員とは、われわれとの協力関係をさらに強くしていきたいですね。われわれの現場で認められた商品は、間違いなくコンシューマ市場にもほかの業種にも安心して出せます。商品開発の段階で、われわれの情報を活かせる工夫を検討したいですね。
――これからの映像世界についてどう感じていますか
大村 マッピングは、われわれの既存のクライアントに対しても、とてもおもしろくてクリエイティブなアプローチができる“商材”だと思います。われわれがいままでやってきた仕事は、学会とか展示会とか、どちらかというとBtoBのクローズな世界でしたが、そこでお付き合いいただいている人たちにも、マッピングを通して「私たちはこんなこともできますよ」とアピールできる。マッピングはオープンで、一般の多くの人が目にする世界ですから、若い人たちにもいい刺激になると思うんです。マッピングだけでなく、機材の進化によってわれわれのフィールドがどんどん広がっています。今後はコンテンツづくりや演出企画など、クリエイティブな部分で実力を発揮するスタッフも多くなるでしょう。それは映像業界にとって夢のある、ワクワクすることです。
――映像には、まだまだ大きな可能性がある
大村 雲に映すとか、宇宙から地球に投影するとか(笑)、いまは無茶苦茶なことですが、決してあり得ない話とも言い切れないのが映像の世界です。ちょっと話が飛びましたが、いろんな思いをもった人たちが、夢を実現できる世界になりつつあるのが、いまの映像業界なのかなと考えています。
――ありがとうございました。今後のJVR協会の活動に注目したいと思います
日本映像機材レンタル協会のウェブサイト