【寄稿】国際博覧会を語る MICE・展示会業界にとってのビジネス・チャンスとは 桜井 悌司 氏_前編

▽3.国際博覧会とMICE・展示会イベントの相違

国際博覧会とMICE・展示会イベントの相違点につき、下記の表にまとめてみた。いくつかの相違点につき説明する。

項目 オリンピック・パラリンピック 万国博覧会・国際博覧会
開催地の決定 IOC委員による選挙 加盟国による選挙(各国の政府代表)
開催頻度 4年に一度 5年に一回の登録博とその間に1回のみの認定博
期間 せいぜい1か月 3~6か月
収益性 高い(スポンサー多数) 損失を出す可能性もある
政府保証 なし あり
主催国の広報効果 非常に高い 高いがオリンピックほどではない
参加国の広報効果 かなり高い 非常に高い
インフラ 費用膨大 場合によっては、オリンピック以上にかかる可能性あり
参加国の経費 比較的少ない 多大。特にパビリオンを独自で建設する場合
実施主体 IOCが絶大な権限を持つ BIEは助言機関

まず最初の点は、国際博覧会は、前述のとおり、国際条約に基づく大規模イベントで、国や国際機関が主たる出展者であるということである。したがって、常に参加国・地域・国際機関数がよく取り上げられる。

第2の相違点は、開催規模が格段に広大である。過去の大型の登録博(一般博)の総面積を見ても、2010年上海万博、328ヘクタール、1967年モントリオール万博、287ヘクタール、1992年セビリャ万博、215ヘクタール、1970年大阪万博、150ヘクタール、2015年ミラノ万博、110ヘクタールとなっており、その大きさが理解できよう。

第3の相違点は、会期が長いことである。認定博の場合でも3か月、登録博の場合、6か月であり、会期中は休みなしで、1日あたり12時間程度営業する。セビリャ万博の場合、10時から朝の4時まで(パビリオンは、夜10時まで)営業していた。

第4の相違は、来場者数が膨大であることだ。上海万博の7308万人、大阪万博の6421万人、モントリオール万博の5031万人、セビリャ万博の4182万人は別格としても、登録博の場合、総じて2000万人を超える。

第5の相違点は、主催国、参加国ともに投資額が相当額に達することである。主催国の場合、道路、橋梁、鉄道、会場整備、EXPO村等のインフラ整備費、自国パビリオン・テーマ・パビリオンの建設等に投資しなければならない。参加国の場合でも、スペース代は無償であるが、パビリオンの建設・装飾費・運営費等で大きな出費が伴う。半恒久建築とブース工事では自ずとコストが異なる。また勤務時間が長く、会期中休日無しなので、1つの勤務ポストに通常3名の配置を準備しなければならないこと等もコスト高に繋がる。

第6の相違点は、文化イベントが盛りだくさんなことである。主催者および参加国による歌、踊り、コンサート、演劇、サーカス、展示会、スポーツイベント等が毎日のように、会場内外、パビリオン内で行われるし、各国のナショナル・デーには、式典と各種パーフォーマンスが行われる。

第7の相違点は、海外の要人往来が頻繁であることだ。参加国のパビリオンでも国家元首級のVIPが多数訪れる。ましてや主催国となると要人往来の受け入れだけでも大変である。筆者が1992年セビリャ万博の日本館の業務に従事していた時でも、日本館だけで、会期中、国王、大統領、首相級の要人、19名、各国の大臣級、190名を受け入れた。博覧会は、国際交流に大いに貢献するイベントであると言えよう。

第8の相違点は、パビリオンの建設や館内工事・展示工事が完成後、運営業務が始まるが、アテンダント派遣、警備、清掃、映像・ロボット等のメインテナンス業務等は、展示会、MICEイベントのように、短期間ではなく、中長期の業務となることである。

項目 万国博覧会・国際博覧会 MIC(展示会を除く) 展示会・見本市 E
目的 国威発揚・国情紹介・国際交流 業界、学会等の意見情報交換 ビジネス
開催者 国、国際条約に基づくイベント 国際団体、業界団体、学会、地方自治体、企業等 企業、工業会、マスコミ等
出展者・参加者 国、国際機関、地方自治体、企業、NPO 学会、業界団体、地方自治体、国際団体、NPO、企業 企業、業界団体、地方、自治体、政府関係機関
ビジター 一般大衆 専門分野、関係者 企業、ビジネスマン
開催頻度 何十年間に一度 毎年ないしは隔年で開催されるが、開催地にとっては何年かに一度 年に1~2回で毎年開催
開催期間 3か月~6か月 1~2日間 3~4日間
開催時間 朝から晩まで、会期中休みなし ビジネスアワー、懇親会あり ビジネスアワー、ただしB to Cの場合は、土日も含む
全体の
コスト
膨大(道路、鉄道、会場建設、EXPO村、プレスセンター等のインフラ、主催国のパビリオン及び参加国等のパビリオン建設、広報・催事・運営・旅費、滞在費等 主催者の組織費、スペース・広報費等、参加者・出展者の経費等 主催者の組織費、スペース・広報費等、出展者の経費等
建設
コスト
パビリオンを建設する場合、ほぼ恒久建築に近い 展示会を併設する場合、ブース設営工事(会期中持てば十分) ブース設営工事(会期中だけ持てば十分)
展示品 3~6か月に耐えうるもので、参加国の誇る技術、デザイン、芸術作品、工業、工芸品、製品等を展示する」 併設の展示会では、イベントに関連した分野の技術、システム、製品等を展示する 専門の展示会にふさわしい技術、デザイン、製品を展示する
主催国・主催者の負担 多くの発展途上国に対する装飾費、催事費、運営費、滞在費等の支援 ケースバイケースだが、特別ゲストの招待・謝金 セミナー招待者の招待・謝金
アテンダントの
勤務体制
博覧会では、毎日長時間(例えば12時間)、休みなしで勤務することになるので、1つの担当ポストにつき3人の配置が必要 ビジネス時間内なので1ポストにつき1人でよい ビジネス時間内なので1ポストに1人でよい
イベントの構成 開会式、閉会式、主催国・博覧会公社が計画する各種イベント・催事・シンポジウム、参加国のナショナルデイの式典・催事・通常催事、シンポジウム、アワードセレモニー等 歓迎レセプション、本会議、分科会、ワークショップ、併催展示会、夕食会、コーヒーブレーク、アワードセレモニー、事後ツアー、婦人プログラム、主催者による催事等 ブース展示、併催セミナー、商談・マッチングイベント、レセプション、表彰式を含む主催者企画イベント、出展社主催イベント等
会場の
構成
博覧会公社事務局、プレスセンター、テーマ・パビリオン、外国館パビリオン、発展途上国等の合同パビリオン、企業パビリオン、ナショナル・デーの式典会場、劇場、コンサートホール、シンポジウム会場、売店、レストラン等 会議場、同時通訳ブース、併催展示場スペース、分科会・ワークショップ・スペース、レセプション・コーヒーブレーク・スペース、受付・登録スペース、事務局・VIP関係者控室等 展示場、併催セミナー・スペース、商談・ラウンジ・スペース、主催者企画の展示・イベント・スペース、受付登録スペース、事務局・VIP関係者控室等
VIPの
訪問
博覧会には、各国の元首、首相、大臣級が頻繁に訪問する 開会式には、時折、政府要人が出席する 開会式には、時折、政府要人が出席する
その他 博覧会の主催国は、貧しい発展途上国に対し、装飾費、運営費、催事費、広報費等の分野で支援する 左記のような支援はない 左記のような支援はない