動き出す観光業 誘客に向けた神奈川県の取り組み

新型コロナウイルスの感染拡大により多大な影響を受ける観光業界。インバウンド誘客から、国内観光客の誘客にシフトチェンジを図る神奈川県は、商談会やシンポジウムを企画し県内の観光業の強化を図る。10月に実施された2つのイベントはオンラインとオフラインで開催された。その模様ををレポートする。

県内の観光事業者がオンラインで商談

神奈川県観光魅力創造協議会は10月13日、「令和2年度第1回神奈川県観光商談会」をオンラインで開催した。

同協議会は昨年のラグビーW杯や2020東京オリ・パラを契機に国内外の観光客を県内へ誘致するため、観光資源の発掘やモデルコースの企画を行い、一般旅行客や旅行会社へ発信することを目的に2016年に発足した。景観の良いスポットや体験、グルメ、産業観光など2079の観光資源の取りまとめのほか、旅行会社と県内の観光事業者の商談会を実施している。今回は9月に開業した「ザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜」や10月に開業した「オークウッドスイーツ横浜」をはじめとする企業・団体がセラーとして、旅行会社、ランドオペレーター、PR会社などがバイヤーとして、合計60社参加した。これまでは主にインバウンド誘客を目的に実施していたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、今回は国内からの誘客も視野に入れ展開した。

主催の神奈川県国際文化観光局観光部・国際観光課の神田辰明インバウンド担当課長は、商談会では初の試みとなったオンライン開催について「直接会えない状況下だが、予想以上に多くの事業者にご参加いただいた。新型コロナ収束後に向け、観光事業者も安全・安心の感染防止対策を取り準備を進めているので、神奈川県としては、このような機会を今後も増やしていきたいと考えている」と話した。

今後の展望については「ニューノーマルな観光を模索している。新型コロナがある程度収束に向かえば、次回は実開催としたいが、厳しいようであれば、オンラインやハイブリッドでの開催も視野に入れていく。多くの制約があるが、引き続き会議やセミナーを開催していきたい」と述べ、観光業界ではオンラインツアーといった商材が出ていることについて「新型コロナが収束すれば、神奈川県に来ていただくための新しいプロモーションが、出てくることを期待している」と語った。

オンライン商談ツール「Remo」を使って開催

商談会はオンラインツール「Remo」を導入し実施された。「Remo」は1テーブル最大6名が参加できるビデオ会議の集合体で、画面上に並ぶ円卓を選択することで、各ビデオ会議に参加できるシステム。参加者はさまざまなテーブルを移動して商談を進めることができるので、今回はセラーである企業ブースを固定し、バイヤーである来場者がテーブルを回り、商談を行った。

神奈川県観光魅力創造協議会のメンバーであり、今回の開催で配信など、運営のバックアップを担当したパシフィコ横浜の大村正英営業開発担当部長は、協力の背景について「パシフィコ横浜が旅行業登録を取得し、MICE参加者の滞在支援策として、県内観光地への送客など、広域の地域連携を新たなサービスとして取り組みを始めたため」と話す。今回のオンラインシステム導入にあたりパシフィコ横浜は、商談をスムーズにするため開催前に「Remo」の操作練習などを参加者全員に対して行っている。「Remo」について大村氏は「さまざまなオンラインツールを試していた。9月に行われた協議会の総会では、『Zoom』を利用したが、今回は商談会に適したオンラインツールとして、『Remo』を提案した」と語った。

産業観光の活性化を図る

神奈川県のほか、横浜市、川崎市と立地企業などで構成され、京浜臨海部の産業観光を推進する京浜臨海部産業観光推進協議会は10月28日、コロナ禍での産業観光の在り方を考える「第8回観光シンポジウム」をパシフィコ横浜で開催した。

はじめに同協議会の李宏道会長があいさつし「コロナ禍をどのように乗り越えていくのか、逆境を活用して乗り越えていきたい。パシフィコ横浜で行われるMICEと他の観光施設が協力することで、一緒に神奈川を潤わせていきたい」と期待を語った。

続いて横浜市文化観光局観光MICE振興部部長栗原浩一氏が登壇し、「横浜市では、補正予算による観光・MICEの復興支援策を実施しており、今後も引続き市内観光の回復に取り組んでいく」と述べ、横浜市内観光・MICE復興支援事業として旅行代金の一部が助成される“Find Your YOKOHAMAキャンペーン”を紹介した。

その後、全国産業観光推進協議会の須田寬会長による基調講演が行われた。須田会長は新型コロナ拡大前と同じ観光施策では誘客効果が低いとして、今後の観光では観光客の“出発地(国)”や“着地(目的地)”のほか“観光手法”の多様性が重要と語り、地元の人々の理解を深めることや観光にストーリーを持たせ、街のブランディングが必要と話した。

現在の産業観光のもつ課題については、工場見学を実施している企業がまだ少ないことを挙げ、その背景に工場見学が企業のPRや社会奉仕として行われていることや、それによってビジネスモデルが成立しにくいことを指摘。「業界団体や自治体が連携して運営協議会やコンソーシアムを結成し、地域の観光収入の一部を貯蓄し再配分することで、各企業に産業観光のビジネスモデルが成り立つよう配慮してはどうか」と提言したほか、実施している企業にも利益をもたらすとして、見学に合わせた製品販売も推奨した。産業観光の受け入れを行っていない企業については「“観光=単なる遊び”と思っている経営者が多い」と述べ、観光の経済波及効果が自動車産業と同等であるとして「国の経済に観光が必要ということを知ってもらう必要がある。観光は文化行動であるとともに経済行動であるということを理解してほしい」と続けた。

また自治体の役目として、地域によって産業観光への考え方に温度差があることから、「地域内外への情報発信のほか、産業観光における各施設との調整役としての活動や講演会などのイベント開催をしてほしい」と期待を示した。