【五輪談合】東京都が調査報告書を公表

東京都は14日、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」)が発注した業務の契約を巡る談合事件について、調査報告書を公表した。

都の調査チームが組織委員会の契約手続及び意思決定過程等の確認を行い、その確認結果に基づき、外部有識者が専門的見地からガバナンスやコンプライアンス等について課題を抽出・分析したもの。

以下がその概要。

<調査チームの主な調査・確認事項>
〇組織委員会の業者選定及び契約手続等を清算法人へ確認
・契約の経緯、入札制度、入札参加者への接触状況等について質問し、回答を得た。
〇組織委員会のコンプライアンス遵守・ガバナンス強化の取組等を清算法人へ確認
・事業者、職員それぞれに対する未然防止の取組について確認した。
・その他の具体的な取組事項について質問し、回答を得た。
組織委員会における監査(内部監査、監事監査、会計監査人監査)の状況を清算法人や会計監査人等に確認
〇共同実施事業における書類等を確認
〇都より組織委員会に派遣された関連職員、組織委員会元幹部、受注事業者、受注事業者より組織委員会に派遣された関連職員へヒアリングを実施
・テストイベント業務等への関わり、組織委員会におけるガバナンス、コンプライアンス等の状況について確認した。

<有識者による課題整理・分析>
(1)スポーツガバナンスの全体的な枠組みと都の関与

[利害関係者全体のスポーツガバナンスの構築]
(課題)
・官民の様々な出向者から組織が構成され、内部統制や利益相反対策、コンプライアンス等の面から、そのかじ取りは非常に難しいものがあったものと考えられる。
・オリパラ大会は、大規模なイベントであると同時に、競技運営等の水準がハイレベルであることから、組織委員会側に知見のない中で大会を成功させるためには、業者および出向者のノウハウを活用せざるを得なかった。

(意見)
・大会運営組織においては、役員選考基準の設定や外部委員を含む選考委員会等の仕組みにより、大会運営のノウハウやマネジメント経験のある職務に適した者を役員として選任すべきではないか。
・スポーツ庁、都、JOCなどに、大会運営の経験者等を集めた組織を作り、そこが自治体や競技団体の積極的な取組を支援していくということも検討すべきではないか。

[都の関与]
(課題)
・組織委員会は都とは別の公益財団法人であるため、都の関与には限界があり、公費負担した事業以外への都の関与は限られていた。

(意見)
・大会運営組織に公費を投入する場合には、大会運営組織の自律的な管理に加えて、都としての関与・監視をより可能にする枠組みをつくる必要があるのではないか。
・大会運営における支出については、共同実施事業管理委員会のような公費のチェックの仕組みを活用して、全体の支出についても同様なチェックをすべきではないか。
・談合による排除措置命令等が確定した場合、清算法人に対して損害賠償請求等の適切な対応を行うよう働きかけ、その上で、都は対象となる公費について返還を求めていくべきである。

(2)組織委員会の取組
[ガバナンス]
(課題)
・旧エンブレム問題を契機に、監査室、法務部を設置し、経営会議に参加させて牽制機能を強化したが、経営会議自体は内部の関係者会議であるため、資料や議事録が公開されておらず、その効果を確認することは難しい。
・テストイベント計画立案等業務委託の入札の大半が一者入札となっていたという結果は、理事会において周知すべき事項であったのではないか。
・テストイベント計画立案等業務について、競技ごとに事業者名が記載された一覧表を見た職員がいたが、談合の認識があったことは確認できなかった。また、談合の計画や調整、指示をした職員も確認できなかった。

(意見)
・牽制機能にかかる組織体制の強化にも関わらず、結果的には事業の実施が優先され、不正防止の観点では相互牽制が十分に機能しなかったのではないか。
・評議員会・理事会・監事、事業実施部門、コンプライアンス部門・内部監査部門による三者の統制が働くように組織を構築すべきではないか。
・不正につながる可能性のあるものを幅広く報告する仕組みを作るべきである。

[コンプライアンス]
(課題)
・コンプライアンスの仕組みは整備され、研修など職員のコンプライアンス意識を涵養する機会も設けられていたが、理解度は人それぞれであるなど必ずしも奏功していなかった。
・組織委員会には事業者との接触ルールとして定めたものはなく、接触状況を把握し管理する仕組みは整備されていなかった。

(意見)
・行動規範の遵守を本人に認識してもらうためには、誓約書等に自筆のサインを求める手法が望ましい。
・事業者との接触に当たっては、複数職員での対応や接触記録の作成など、具体的なルールや留意事項を定めるべきである。
・不正を防止するためには、発注者側も事業に対する知見を有すべきである。

[人材組織]
(課題)
・給与水準や日本が英語圏でないことなどから、組織委員会では海外のプロフェッショナル人材等を直接雇用することが十分できず、有効活用できなかった。
・利害関係者が関連部署に配置されていた。また、民間企業の出向者・派遣者の給与は、出向元・派遣元が負担していた。
・出向者、出向元との利益相反に関する規程・基準が定められていなかった。

(意見)
・大会運営組織がノウハウをもつ優秀な人材を直接雇用すべきである。
・将来を見据えてレガシーとしての人的資本の育成なども視野にいれるべきではなかったのではないか。
・利益相反を防ぐため、民間企業の出向者の給料は大会運営組織が負担すべきである。
・研修等において、利益相反行為の具体例を類型化して示すなど、職員に利益相反に関する理解を徹底させることが必要である。
・受託企業からの出向者が、契約手続に関与しないようにする組織体制を構築し、出向者の権限の範囲を明確化する必要がある。

[契約・調達]
(課題)
・予定価格の設定のための下見積の徴取は1者からでも可としていたが、1者のみの徴取では、予定価格が高止まりする可能性がある。
・調達管理委員会の主な検討内容に事業を取り巻く不正リスクの発見と対策が含まれておらず、不正リスクに対しての牽制が十分に機能しなかった。
・総合評価方式の事業者決定基準の決定の際、外部委員による検討は行われていなかった。

(意見)
・原則、複数者の下見積を徴取することをルール化すべきである。
・調達管理委員会は、不正リスクに対する知見や経験をもった外部者を含め構成する
などして、本大会運営までの全体を含めた契約のあり方を検討すべきであった。
・事業者決定基準の策定に当たっては、妥当性・適正性を担保するために外部の視点
を入れるべきである。

[監査]
(課題)
・組織委員会では、内部監査、監事監査、会計監査人監査のそれぞれの所管が異なり、連携が取れていなかったため、監査の実効性を高める余地があった。
・内部監査を所管する監査室は数名のみの配置であった。

(意見)
・不正リスクを含む各監査相互間の情報の共有化、効果的な監査を実施すべきである。
・内部監査を行う部署に相応の人員を配置し、日常業務の遂行を常時チェックできる体制を整えるべきである。

[情報公開]
(課題)
・組織委員会は、民間法人として、守秘義務等により情報公開の範囲が制限された部分も少なくなかった。
(意見)
・守秘義務も重要でありすべての公開は難しいが、公共性や公益性に鑑み、できる限りの情報公開に取り組むべきではないか。
・都のように、落札者以外の入札経過情報を公開することにより、入札手続の透明性を図るべきではないか。

<今後の国際スポーツ大会等に向けて>
今後の国際スポーツ大会等の開催に向けて、海外事例も参考に、東京2020大会の経験を踏まえたガバナンス確保等の取組について、有識者と意見交換を実施した。

例えば、イギリスにおける運営組織に求めるガバナンス等を体系的に整理したドキュメントや、フランスにおける利益相反の防止等のための事例集などの取組も参考とし、大会運営組織のガバナンス強化やコンプライアンス確保等を図るとともに、実効性を担保する枠組を構築することが必要ではないかなどの意見が出された。