シネ・フォーカス 設立40周年  現場の声に耳を傾け、時代の潮流を読む  八重垣 圭 氏

映像・音響機材のレンタルや販売を手掛けるシネ・フォーカスは2019年4月に設立40周年を迎えた。

1979年に映画フィルムのレンタルと出張上映サービスを主事業として設立した同社は、時代のニーズに対応するかたちで事業を拡大し続ける一方、新たな市場開拓に対しても積極的に取り組んできた。

2019年5月、代表取締役社長に就任した八重垣圭氏に、現在の思いを聞いた。

(本記事は「見本市展示会通信」812号(2019年10月15日発行)に掲載されたものです)

新体制で令和に臨む

―社長就任までの経緯と設立40周年の感想をお聞かせください

私は大学卒業後、化粧品会社の営業部門に勤めた後、大学院に進学し、経営学修士を取得しました。その後は外資系の証券会社の管理部門を経験し、2014年に家業であるシネ・フォーカスに入社しました。

40周年を迎えられたのは、お客さまの存在はもちろんですが、なによりも社員がいたから。私が産まれる前からシネ・フォーカスを支え続けてくれるくれている社員への感謝と尊敬の気持ちは大きいです。

―現在の主力となる事業は何でしょうか

イベントの映像機材のレンタルとオペレーションです。中でも株主総会や学術会議、企業のセミナーを得意としています。最新の機材を揃えていることや、オペレーターの技術力をはじめとした専門性の高さが評価されています。

また東京国際フォーラムや虎ノ門ヒルズフォーラムといった施設の常駐業務も増えています。シネ・フォーカスのあゆみを振り返る中でも、施設常駐サービスの開始は大きなフェーズでした。

さらに私自身が関わってきた思い入れが強い業務は、新規事業の3Dホログラムのプロジェクトでして、今年(2019年)で6年目になります。去年(2018年)あたりから軌道に乗ってきた実感があります。

はじめは新しい試みだったので設営一つとっても苦労しましたが、今では社内にノウハウも蓄積され、お客さまにも認知されてきました。これからは、3Dホログラムを特別なものとして扱うというよりは、良い意味でコモディティ化することを望んでいます。

構造的に簡単に使えるものではありませんが、ラインアップの充実やコストの問題に対応し、用途に応じて気軽に使ってもらいたいと考えてます。

教育と労働環境

―抱える課題は何でしょうか

やはり、人材の問題が大きいと感じています。まず慢性的な人材不足。加えて、わが社では社員も世代交代のタイミングに差し掛かっています。

20歳で入社した社員も40年経てば60歳となっており、社員を育成する環境を整えることは急務です。ところが、機材に関する専門的な技術や知識が必要な部門や、育てる意識が高い人の下では育成が進むものの、経験不足の上司の下だと育たない。良くも悪くも人ありきなんですね。

育成は一つのミッションであるという意識を、しかるべき立場の人には持ってもらう必要がありますし、会社としても評価や目標を明示し体系化していかなければなりません。

労働環境についても考えることは多いです。私が入社して強く感じたのは、これまでは働く人が抱える問題に取り組みきれていなかったことです。

もちろん時代背景もあったと思います。皆ががんがん働けばどんどん業績が伸びていく時代。それがあったからこそ、ここまで来られたというのはありますが、これからは多様性や価値観の変化に焦点を当てていくことを強化していきます。

昨今、働き方改革が叫ばれますが、仕事柄どうしても深夜業務があったり、時間が読めず長時間労働になってしまう現実があります。必然的にそれに対応する社員の労働環境が悪くなってしまっていることも把握していますし、人材不足も相まって、一人にかかる負担が大きいことも課題に感じています。

そこで3年前には人事部門を立ち上げ、2018年の4月には人事制度を抜本的に見直し、変更しました。社員がいかに気持ちよく働けるかを考え、今も試行錯誤しています。結局、モチベーションを高め働いてもらうことが会社にとって一番良いことなので。

―経営の原点にある考え方は何でしょうか

人の問題に対するこだわりは強いですが、これは私の経歴が関係しているのだと思います。

化粧品会社でサラリーマンとして営業をやっていたときは現場側として「こうだったらいいのに」という不満をたくさんもってました。逆に2社目では管理部門で働いていたので、現場の人に対し「なんでこんな簡単なこともやってくれないんだ」と感じることも多かった。

今、両面を見る立場になりましたが、当時の経験や思いは心に留めています。経営者はサラリーマン側に寄りすぎてはいけないともよく言われますが、私個人としては、社員とは労使関係を強調しすぎない関係を築いていくつもりです。

”人”にフォーカス

―今後の方針を教えてください

国際的には政治も経済も不安定で前向きな見通しが立ちませんが、一方でわれわれの業界に目を向けると、今後も展示・イベント会場は全国的にも増えますし、オリンピックや万博、IR(統合型リゾート)、国際会議、インバウンド誘致など、ポテンシャルはあると感じています。

マクロ的な予測と業界の伸びのどちらを見据えるべきかというのはありますが、これからは明確な意志を持って会社としてのポジショニングを決め、乗る波を見分ける必要があります。

社員に対しては、さらに自主性や自立性を養ってもらいたい。これからはもっと権限を委譲して、皆さんにお任せしたいと考えています。まだまだ遠慮しながら仕事をしている人も多いなと感じているので、思っていることは声を大にして言ってもらいたい。社員の声は、経営上、貴重な判断材料になりますから。

―ありがとうございました

(本記事は「見本市展示会通信」812号(2019年10月15日発行)に掲載されたものです)