寄稿 展示会産業はコロナ禍から何を学ぶべきか? 寺澤 義親 氏

日本で初めて新型コロナ感染者が確認されてから2022年1月15日で2年になる。この間6つの感染拡大の波があり日本を含め世界経済は未曾有の打撃を受けた。特に人の移動に海外旅行が禁止・制限される中で大きく影響を受けた観光業界、鉄道・航空業界、宿泊・飲食業と同じく展示会・ビジネスイベント業界も深刻な影響を受けた。
コロナ禍が続くこれまでの2年間、世界の展示会・ビジネスイベント業界がイベントの延期・中止またはリアルイベントを開催できない状況にどう対応しているかについては見本市展示会通信などでも6回にわたり詳細なレポートを紹介してきた。
こうした海外の動きの中で今回は意外と見落とされているかもしれない取組みをここで改めて見ることにしたい。そしてそれがコロナ禍を乗り越えて業界の回復と再建に取組む日本の展示会イベント業界にとって何かしら参考になれば幸いである。



1⃣ 業界団体と関連業界の結束が重視された

業界団体は各国ともほぼ共通して政府・自治体や関係当局のガイドラインと規制情報の情報共有から始まり中央政府や地方政府に対して深刻な打撃を受けた業界への支援を要請した。
さらにパンデミックが続く中で感染防止とビジネスイベントを安全に開催するためのガイドラインを策定してイベント再開に向けた取組みを行った。
こうした中で特に業界が関連業界との結束を強化したり、政府機関との連携を強化した事例のうち印象深いケースを以下に紹介する。

1)豪州:Business Event Council Australia(BECA)
豪州ではビジネスイベントの横断的組織としてこれまでもBECAを窓口にして中央政府へのロビーイング活動を実施しているが今回も業界最大の危機に直面して果敢かつ戦略的に対応しているのが特筆される。BECAは展示会イベント主催者(EEAA)、コンベンションビューロー団体(AACB)、ミーティング・イベント団体(MEA)、PCO団体(PCOA)、会場施設団体(ACCG)、ICCA豪州チャプターの6団体で構成されるプラットフオームで1994年に設立されている。
主に連邦政府と業界共通課題に関して交渉調整をするために設置されているが、日本の状況と比較するとこうした組織が結成され業界を代表して政策提言も含め政府と交渉していることが羨ましくもあり業界の士気の高さと気概を感じる。
政府に支援を要請する場合にはビジネスの実態や経済効果も含めしっかりした調査分析を基に、さらに政府に対して追加支援を要請する時も既存の施策効果の分析も行い、同時にイベント再開に向けたガイドラインやロードマップを作成して政府への政策提言を行っているのは注目される。今回の活動で政府への要請や提言のためにBECAが作成した主なレポートは以下のとおりである。

①Value of Business Events to Australia2018/2019 (2020年3月):ビジネスイベントの経済効果と重要性をアピール。

②Lost Business Report: Impacts by Covid-19 on the Business Events Industry
(2020年4月):コロナ禍の深刻な影響を調査分析。

③BECA Covid-19 Safe Guideline(2020年4月):B2Bイベントは大規模集会とは異なるとアピールすると同時にビジネスイベントを迅速、安全に再開できるガイドラインを連邦政府に提出。

④Future Confidence and JobKeeper Impact Report(2020年7月):政府の雇用維持支援スキームの効果調査。

⑤一連の取組みは経済再開時にビジネスイベントが持つ役割の重要性を連邦政府に認識させることにつながり2020年9月に連邦政府はコロナ再建基金からビジネスイベント産業支援予算として5,000万豪ドルを決定した。これは2021年に開催されるビジネスイベントのうち助成認定されたイベント開催費の半分まで支援するスキームになっている。

⑥Covid-19 Recovery and Rebound Framework for the Australian Business Events Industry (2021年1月):これまでの調査結果と分析に基づき業界回復と再建に向けた提言を連邦政府に提出。特に業界復活の過程において短期・中期の回復期(Recovery)と中期・長期の再建期(Rebound)に分けるフェーズ毎のアプローチ戦略が重要と提言。
フェーズ毎の課題を抽出して対応する支援プログラムを提案している。

2)マレーシア:MACEOS(Malaysian Association of Convention and Exhibition Organizers and Suppliers)
業界団体のMACEOSはイベント再開に向けて開催運営基準や海外から同国への訪問に関する安全基準について関連業界と連携して取組んだ。2020年3月から4月にはコロナ禍による影響調査を実施してその結果を基に政府に税控除や観光キャンペーン基金の活用など具体的な支援策を要請している。5月にはMACEOSを含め民間9団体で構成するBusiness Events Council of Malaysiaはビジネスイベントの開催制限が強化される中でビジネスイベント(MICE)を安全に開催できるので大規模集会(Mass Gatherings)とは区別すべきと政府に強く働きかけた。6月にはMACEOS,Business Event Council,Art,Live Festival and Event Associationで構成するタスクフォースがビジネスイベント再開に向けてイベント開催運営基準(Standard Operating Procedure)を作成し政府基準として認定されるように提出している。
並行してMICE担当の政府機関(MyCEB)もNational Security Councilにビジネスイベント再開時の参加人数枠について協議。その後MACEOSは経済再開にはワクチン接種の進展が重要として政府の取組みに積極的に協力している。MACEOSメンバーの20施設はワクチン接種会場の提供に協力すると同時にMyCEBとも連携して接種会場に150人のボランテイアを派遣した。
2021年9月には業界の深刻な状況を踏まえMACEOSは国家回復計画(National Recovery Plan)においてビジネスイベントはPhase4で再開されるがそれでは遅すぎるとしてPhase3段階でワクチン接種、施設の50%制限、開催運営基準の順守を条件に州間の移動も許可されビジネスイベントが再開できるように強く要請した。
その後10月にはMACEOSはツアー旅行代理店協会、ホテル協会、航空業界と連携して観光・アート・文化省が所管するマレーシアへの訪問が安全とする基準Travel Safe Alliance(TSA)Malaysia の作成にも参加している。

3)タイ
タイの展示会業界団体(TEA)とインセンテイブ・コンベンション業界団体(TICA)はこれまでもMICE司令塔の政府機関(TCEB)と緊密な連携を取っているがビジネスイベントの再開に向けても2020年5月にはTCEBが取りまとめるMICE施設の衛生基準ガイドライン(MICE Venue Hygiene Guideline)策定に協力した。この時はホテル協会やイベントマネジメント協会も参加している。

4)英国
展示会・ビジネスイベントの3団体AEO(主催者)、AEV(施設),ESSA(サービスプロバイダー)で構成するEIA(The Events Industry Alliance)は2020年3月に業界の深刻な状況とビジネスイベントの経済効果を首相にアピール。政府のレジャーとホスピタリティ分野への支援策ではビジネスイベントがカバーされていないため各種支援を利用できないと指摘してビジネスイベントへの認知と業界への緊急支援を要請。その後10月には特に業界が果たす雇用貢献を強調して時限的な包括支援を要請している。
一方英国のイベント関連業界をカバーする連携組織のBVEP(The Business Visits and Events Partnership)も更なる業界支援を求めて2020年3月にイベントを所管するデジタル・文化・メデイア・スポーツ大臣と緊急協議を持った。