日本コンベンション協会(JCMA)はこのほど、MICE業界では初の試みとなる、業界での働き方に関する「未来につながる働き方アンケート」を実施した。
MICE業界従事者の中で最も若年層にあたる20代において、職業選択のきっかけとして最も多かった回答は「なんとなく面白そうだから」「仕事内容に憧れがあった」で、両者を合わせると71%だった。さらに、「目指したい存在が身近にいる」と答えた人も69.4%と、約7割に達している。業界への憧れや、ロールモデルとなる存在が身近にいることが、前向きな姿勢で仕事に取り組む原動力となっている実態が浮かび上がった。また、性別や年齢による課題や価値観の違いも明らかになった。
アンケートは2024年12月9日~2025年1月15日の期間、JCMA所属会員260事業者・公的団体の従業員を対象にインターネットで調査を実施。回答数は520件だった。JCMAでは今回のアンケート結果を今後の改善施策や業界全体の取り組みの参考にしていく。
以下、プレスリリースを引用
<調査結果の詳細>
1. 20代の職業選択のきっかけは「なんとなく面白そうだから」
「仕事内容に憧れがあった」が合計71.4%
MICE業界に従事するきっかけとして最も多かったのは「面白そう」(35.6%)で、次いで「自分に合っている」(29%)、「仕事内容への憧れ」(25.4%)という理由が挙げられた(図1左上)。特に20代・30代は「面白そう」「仕事内容への憧れ」を選択した人が多く、それぞれ全体の約7割にのぼりました(図2赤枠)。
仕事へのやりがいについては、「感謝の言葉をもらうこと」(52.9%)、「成果を認められること」(46.5%)、「仕事をやり遂げること」(32.7%)に強く感じているという回答が目立ちました(図1左下)。これは、コンベンションやイベントの成功が見える形で評価されやすいMICE業界ならではの特性が反映されていると考えられます。
さらに、仕事の意義として「社会貢献」(48.1%)、「自己成長」「収入獲得」(いずれも46.7%)も高い割合で選ばれており、それらを重視する傾向が強いことも分かりました(図1右)。これは、MICE業界が単なる収入源にとどまらず、従事者にとって社会的意義や自己実現の機会を提供していることを示唆しています。
総じて、MICE業界の従事者は、仕事の成果と遂行に強いやりがいを感じ、自己の成長と社会への貢献をモチベーション・使命として重視しつつ、適切な収入も求めていることがわかりました。


2. 20代の「目指したい存在が身近にいる」は69.4%
調査では、全体の57.1%の回答者が「目指す存在がいる」と回答(図3左上)。特にこの傾向が顕著だったのは「20代」(69.4%)、「入社1年未満」(83.3%)、「入社1年〜3年以内」(71.8%)、そして「コンベンション施設の従事者」(68.8%)といった層でした(図3右)。
また、「目指す存在がいる」と回答した層では、業界選択理由の実現割合も高く、ロールモデルの存在がキャリア形成に良い影響を与えている可能性が示唆されます(図3左下)。
MICE業界では、キャリアパスが見えにくいことが課題とされる中で、身近なロールモデルの存在がその不安を和らげ、前向きなキャリア意識につながっていることがうかがえます。

3. 業務上の最大の課題は「業務の時間」
特に「従事年数10~12年目」の「女性」層に顕著な傾向
業務上の課題として最も多く挙げられたのは「業務の時間」(43.7%)であり、特に「女性」(51.1%)および「従事年数10~12年目」(63.9%)の層でその傾向がみられます(図4左上、右)。
これは一般的な社会課題であるワークライフバランスの問題とも重なるものであり、MICE業界においてもとりわけ深刻な課題であることが示されました。
しかし、「業務の時間」を課題と認識している層と、そうでない層との間で「転職(業界外)」を選択肢として挙げた割合には大きな差が見られませんでした(図4左下)。
このことから、長時間労働が離職・転職の一因にはなり得るものの、それ以上に他の要素が転職の意思決定に影響を与えている可能性が考えられます。

4. ジェンダーギャップ、男女の働き方や価値観の違いが反映された結果に
男女の仕事に対する意識調査では、共通点と相違点が明らかになりました。
業界選択理由
男女間で大きな差は見られないものの、女性は仕事内容への憧れや社会貢献をやや重視する傾向があります。
仕事の課題
女性は業務時間の長さやプライベート時間の確保について、特に強い課題意識を抱いていることが分かりました(図5)。
ロールモデルの存在
男女ともに約6割が「目指す存在がいる」と回答しており、性別による顕著な差は見られません。
仕事のやりがいや意義
男女共通して、「感謝の言葉」や「成果の認知」、「社会貢献」、「自己成長」、「収入」を重視しています。しかし細かく見ると、女性は社会貢献や成果の認知、社会的自立により重きを置く傾向があり、男性は次世代の育成や人間関係の構築、会社への貢献をより重視する傾向が見られました(図6)。
まとめ
総じて、女性は長時間労働とワークライフバランスに強い課題意識を持ち、社会貢献や自己実現に重きを置いていることが分かりました。一方、男性も同様の課題を抱えているものの、その程度は女性ほど高くなく、次世代育成や人間関係の構築により注力する傾向があります。これらの結果は、MICE業界における男女の働き方や価値観の違いを反映しており、今後の人材育成や職場環境の改善に向けた指針となる可能性があります。


5. ジェネレーションギャップ、各年代における価値観や
モチベーションの源泉の違いが明らかに
年代別の仕事に対する意識調査では、以下のような傾向が見られました。
業界選択理由
20代・30代の若手は、仕事内容への憧れから業界に入る傾向が強く、約3割がこの理由を挙げています。また、全年代を通じて、業界選択理由の実現できると感じている人は多く、6〜7割が「実現できた」または「取り組み中」と回答しています(図7)。
仕事の課題
20代から50代まで、約半数が業務時間を課題と感じています。特に30代・40代は賃金制度に課題を感じる割合が高く、20代はスキル不足を課題として挙げています(図8)。また、20代・30代の13%が「業務が自分に合っていない」と感じているのも注目すべき点です。
ロールモデルの存在
若年層ほどロールモデルの存在を強く意識しており、特に20代では約70%が「目指す存在がいる」と回答しています。
仕事のやりがい
年代を問わず、「感謝の言葉」「成果の認知」「仕事の達成感」が仕事のやりがいとして上位に挙げられています。一方、「仕事の意義」については年代による違いが見られ、高年層は社会貢献や自社への貢献、次世代育成を重視する傾向があるのに対し、若年層は自己の能力向上や自己実現をより重視する傾向があります。
まとめ
これらの結果は、各年代における価値観やモチベーションの源泉の違いを反映しています。効果的な人材育成や職場環境の改善には、年代ごとの特性を理解し、それぞれのニーズに応じた柔軟なアプローチが求められることが示されました。


<調査総括>
① 長時間労働
業務内容(時間)に課題を持っている人は43.7%と提示した課題の中で最も高く、ワークライフバランスの一般的な課題と符合します。属性別では特に”女性” ”業界従事年数7~13年”で課題感が強く、出産や育児のタイミングで長時間労働が課題になるケースがMICE業界でも多いとみられます。
ただし、業務の時間を課題と考えている層と、そうではない層での転職意向に大きな差がないため、課題感としては高いものの、転職意向には他理由がより影響していると考えられます。
② ロールモデルの存在
全体の半数以上が「目指す存在がいる」と回答しており、特に20代ではおよそ7割と高い値です。一方で、中堅・ベテラン層は5割前後に留まります。約半数に目指す存在がいるというのは決して低い値ではないのではないと考えられます。また、目指す存在がいることで自己実現の状況が高まる傾向があり、よりロールモデルが増えることによって、組織内で良い作用を起こすことができると言えます。
③ 転職要因
「労働環境(賃金制度)」「社会貢献実感」「業務不適合」などが転職意向と関連性が高く、特に転職意向が高いグループは以下の通りです。
1. 賃金・時間への課題を持っており、社会貢献をやりがいとしている
2. 業務不適合と感じていて、目標達成への意義を見出せていない。賃金には課題を感じていない
必ずしも「労働環境(賃金制度)」に課題を持っていると転職意向が高まるわけではなく、「顧客の目的達成」に意義を見出している場合は、転職意向が低くなる傾向があります。関連性が高い項目は前述の通りですが、課題感や仕事への価値観によって転職意向は変化する点を留意する必要があります。
④ 女性の活躍と課題
社会課題となっている働き方やワークライフバランスですが、MICE業界でも女性が働くうえで長時間労働が特に課題となっています。
一方で、「仕事の成果を認められること」にやりがいを感じている女性も多く、パワフルな女性が働いている業界と考えられます。結果を出したい、社会に貢献したいという前向きな思いがある一方で、長時間労働により出産や育児との両立が難しいと感じる声もあり、こうした点は業界の今後の課題のひとつといえそうです。
⑤ 若年層の働き方と意識
若年層の働きがいは能力向上など自身にベクトルが向いている傾向があります。一方、高年層は社会や自社への貢献、後進の育成など他者へベクトルが向いています。この点を理解し各年代でのモチベーションを向上させる組織内での施策が効果的であると考えられます。