
(EventBiz vol.39 特集「開幕!大阪・関西万博」より転載)
自らが循環の一部であることを体感する場
日本館は「循環」をキーワードとした3つのエリアを軸に来場者に体験と学びを提供する。
エリアはそれぞれ「プラントエリア」「ファームエリア」「ファクトリーエリア」で、来場者がパビリオンを一周することで、循環の過程をインスタレーションで追体験できる構成だ。自分自身があらゆる生命とのつながりによって生かされている存在であり、地球という大きな循環の一部であることを考える機会を提供する。パビリオンの空間は円環状となっており、いのちのリレーを体現する。
最大の特徴は円を描くように立ち並ぶ木の板で、隙間から内部を見ることができ、中と外、展示と建築の連続によって、日本館の全体テーマ「いのちと、いのちの、あいだに」にもある、“あいだ”を来場者が意識するきっかけをもたらす。
3つある出入口のどこから入り、どこから出るかによって、異なる物語を味わえるのも特徴となっている。また日本館は万博会場内のごみを微生物の力によって水やバイオガスへ分解するひとつの装置・バイオガスプラントとなっている。
プラントで生み出されたエネルギーが日本館を動かす生きたパビリオンだ。館内では水や二酸化炭素などの無機物と、エネルギーを活用して藻類を培養している。
育てた藻類は食べ物や工業製品といった新たなものへと生まれ変わり、それらが人々の生活で役目を終えた後、再びごみとなりやがて自然に還るといった流れを想定した設計だ。
プラントエリア
プラントエリアでは微生物の働きによってごみが分解され水へと姿を変える過程を表現する。クマ型フィギュアのキャラクター・BE@RBRICK(ベアブリック)がナビゲーターとして微生物の働きに着目しながら、ごみが生活に役立つ形へと生まれ変わるまでの「循環」の過程をわかりやすく紹介する。
またエリア内では「火星の石」を展示。
今回展示する火星の石は約1,000~1,300万年前に火星から飛来し、数万年前に地球に到達したと考えられており、2000年に日本の南極地域観測隊が昭和基地から南に約350km離れたやまと山脈付近で発見したもの。
大きさは幅29センチ、高さ17.5センチ、重さ12.7キロで、ラグビーボールほどの大きさで、火星由来の隕石としては世界最大級となっている。火星の石のサンプルに実際に触れられるコーナーも設置する。さらに目には見えない微生物の活発な動きを、無数の光でダイナミックに表現したインスタレーションも展開する。
暗がりの中で光の粒が舞い上がり、微生物たちの躍動感と生命の営みを視覚的に楽しめる空間となっている。
ファームエリア
ファームエリアでは藻類の力とカーボンリサイクル技術により、ものづくりの素材が生まれていく流れを紹介する。エリア内のナビゲーターには日本の人気キャラクター・ハローキティを採用し、32種類の藻類に扮したハローキティが藻類の魅力と無限の可能性を伝える。
またスピルリナという藍藻類の仲間を培養するフォトバイオリアクターを立体的に配置する。フォトバイオリアクターとは藻類を含む光合成を行う生物を培養する装置で、光エネルギーを効率的に利用し、少量の水で藻類を育てるもの。藻類による有機物生産工場の可能性を提示するとともに、太陽のような光と幾重にも重なった藻類のフォトバイオリアクターによって、幻想的でエネルギッシュな空間を作り出し、森林浴のような癒しの体験を来場者に提供する。
ファクトリーエリア
ファクトリーエリアでは日本が培ってきた伝統的なものづくりと、その心と技を受け継ぐ持続可能なプロダクトを発信する。
素材からものへと変換する過程を通じて循環の一部を表現する。展示によって、日本らしい資源や素材の「循環」を強く意識して培ってきた文化や具体的な社会実装の事例を示す。
ファームエリアの主役であった藻類を素材とし、化粧品や衣類、食品など、循環から生まれたものを展示するほか、日本を代表するキャラクター・ドラえもんが案内役を務め、次世代へ受け継ぐ持続可能なものづくりの精神をナビゲートする。
展示エリアでは8つの切り口で、“やわらかく作る”という日本のものづくりの特徴的な手法を伝統的な取り組みと最先端の技術での活用を対比しながら紹介する。
例えば「強くて壊れないもの」を追求するのではなく、「あえて部分的に壊れる」ことで全体に与える衝撃を吸収するといった発想が挙げられる。
京都府の木津川に架かる「流れ橋」(上津屋橋)は、増水した川の流れに耐えるのではなく、橋桁が流されることで、橋全体にかかる負担を軽減している。
こうした発想は昨年世界初のピンポイント月面着陸を実現したJAXAの小型月着陸実証機SLIMが、月面着陸時に脚部が壊れることで衝撃を吸収し、機体を確実に着陸させることができる構造となっている点と共通している。
このように“やわらかく作る”循環型ものづくりの精神は、時代を超えて受け継がれ現代の最先端技術にもつながっており、日本館では伝統と革新の融合を表現する構えだ。


