「集客」から展示会のブース作りを語る 特別座談会

西田 大介氏

―展示会における映像の変遷について、皆さんはどのように感じていますか
西田 映像によって展示ブースそのものがガラッと変わりました。白い空間だけ提案していれば良いというのもあり得る話で、私たちデザイナーが頑張ってデザインしてきたものが根底から覆されつつあると感じます。けど、それは決して悪い方向に進んでいるのではなく、従来のメソッドでデザインされたものは〝どこかで見たことがあるもの〞にしかならないため、映像が新たな可能性を切り拓いてくれるのではないかと期待しています。映像を使うメリットに1度作ってしまえば世界中に持って行け、大きさも可変的で、しかも後々まで残せるという点がありますので、安価になればプロジェクターを積極的に使っていきたいです。

 

―何も装飾しない展示ブースというのは、デザイナー的に受け入れられるものなのでしょうか
西田 私は全然問題ありません。逆にデザイナーとして自分の範疇を超えると考えたとき、映像ディレクターの方とコラボしていかなくてはいずれ取り残されてしまうのではないでしょうか。

坂本 西田さんの話ですが、逆もまた然りです。最近、どこのブースにも映像パネルが設置してあるせいでギラギラ合戦になってしまっていると感じています。こぞって来場者の目を引くために映像を使った結果、逆にアイキャッチじゃないと。

西田 それも一理ありますね。顧客の話を聞いてると、映像を使いたいという声は多いです。

―顧客の要望という話が出たのでお聞きしたいのですが、PMなどを駆使して〝しっかり演出まで〟お願いしたいという要望は多いのでしょうか
蜂谷 顧客によりけりで、そのレベルにもばらつきがあると感じています。単に世の中の潮流が映像を使うことだからやりたいという要望もあれば、出展している製品やサービスの魅力を伝える媒体として映像が最も適しているとしっかりリサーチしている場合もあります。

坂本 そこが重要で、ただブースでCMを流すだけでは来場者の目は引けません。PMを使うにせよ、造形物やビューポイントにこだわらなければ単なるプロジェクションと変わらないですし。何もすべてを映像で賄う必要はなくて、実物展示の重量感であったり、映像では表現しきれない高解像度のグラフィックであったり、それぞれの強みを活かせばいいんです。特に映像は環境光によって見え方が大きく違ってしまいますので、消防法の問題で暗転きない場合などはコンテンツの魅力を十分に伝えきれない可能性も出てきます。

蜂谷 特に小さいブースだとそのパターンは顕著ですね。ブースによって最適なバランスは違いますので、その見極めが肝心ということではないでしょうか。

―展示会場における映像の使い方について、トレンドを教えていただけますか
蜂谷 展示ブースを空間として捉えたとき、以前はモニターに映し出すだけだった映像の使い方が変わってきていて、展示物に触れることで映像が浮かび上がったりします。このように、映像と現実空間の境目が曖昧であるほど来場者に強いインパクトを与えられるのではないでしょうか。映像は演出にも照明にもなり得るポテンシャルを秘めていますので、四角いマスにはめるだけではもったいないですし、没個性になりがちです。

西田 今や映像は見るものではなく、感じる時代なのかもしれませんね。映像を見たいだけならYoutubeで十分で、空間を彩るひとつの要素として考えた方が可能性は広がるでしょう。

坂本 映像機器の観点から言うと、プロジェクターのルーメン数が上がっていたりLEDのピッチ数が細かくなっているなど進化は感じますが、視野角を含めた空間的な解像度などの感覚を養ってデザインしていく方が重要性は高いと感じます。ただ、コストが下がるのは素晴らしいことだと思います。特に照明型のプロジェクターなんかは数があって初めてその真価を発揮しますので、たくさん使えるようになると嬉しいです。

―最近VR(仮想現実)を展示会で見かける機会が増えましたが、皆さんどのような印象をお持ちですか
西田 正直、展示会においてはあまり可能性を感じません。あくまで個人で楽しむレベルかと。

坂本 おぉ、それならぜひ私の作ったVR作品を見てください。きっと可能性を感じていただけますよ。発電所からロケットまでさまざまな製品を作っている日本企業さまのブースで展示したコンテンツなんですが、ガスタービンやタンカーなど実際にブースに持ち込むのが難しい大きなプロダクトを仮想空間で体感する事ができます。ただそれだけだと面白くないので「ガチャポン」と「パズルゲーム」という要素を追加して楽しみながら商品のプレゼンにもつながるようなものを目指しました。私はVRに可能性を感じる一方、展示会における大人数同時体験には不向きだとも思っています。展示会という限られた会期、せいぜい一日8時間の中で何十人もの来場者にゴーグルかぶせて使い方を説明していてはあまりに非効率的すぎます。ただ、スペシャルな体験を提供すると考えると話は変わってきて、100人中インフルエンサー1人に体験してもらうだけでも価値はあります。

西田 確かに特別な体験として記憶には残りますね。今後はそれに加えて、いかにサービスの世界観を入れられるかじゃないでしょうか。

蜂谷 私たちには、限られた人たちが体験していることをいかにうまく外に発信するかということが求められます。

坂本 後はVRの世界から帰ってきた時、どう接するかも重要です。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を外すと映像コンテンツ内に登場したものが実際に目の前にあったり、体験づくりの一環としてうまく機能させられたらと思います。

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