【イベント映像 対談】ピクス 弓削淑隆×シーマ 石丸隆 映像×テクノロジーで広がる演出の可能性 

石丸  体験設計についてもう少し教えてください。

弓削  僕らの映像制作では“タイムライン”を重視しています。演出の一定時間の中で、見る人が特定のタイミングで何を感じるか。あるいは見る人にどういった効果を与えられるのか。見終えたときの印象。それぞれ細かく設定します。時間の流れに沿って一つ一つの要素をつなげていくことで、コンセプトがきちんと伝わるという考え方です。

この考え方は空間をつくるときにも応用できます。空間の場合は動線を決めることで、「◯分かけてこの位置まで歩いて来る」というような行動や体験が時間軸によって制御可能になる。そこに映像を組み込むことで演出効果が高まり、クライアントの狙いがより効果的に表現できるのです。

 本質的な課題と向き合う 

石丸  クライアントとはどのように関わっていますか。

弓削  以前は、イベントで映像を使うことが決まった上で制作を依頼されることが多く、いわゆる“完パケ”の映像を制作することも多かったのですが、徐々に我々の立ち位置も変わってきて、クライアントが抱えている課題と直接関わることが増えてきました。そのため僕らの提案の幅も広がり、今では予算ありきの提案よりも、まずは本来の課題を解決するための提案をするように心掛けています。

石丸  予算ありきで「とりあえずVR使っておこう」というような展示会も見かけますが、なんとなくクオリティがチープに感じることもあります。

弓削  VRで良質なコンテンツをつくろうと思ったら、1,000万円以上かかるケースもありますからね。普通に考えたら展示会で使うのは難しい。そんなとき僕らは、1回きりのイベントで消費するコンテンツとしての提案はしません。長期的なプロモーションの中で、どのように展開していくかをクライアントに説明することで理解してもらっています。映像コンテンツは色々な使い方ができるので持ち回りのイベントで使ったり、時には他部署を巻き込み予算を捻出してもらえることもあります。

石丸  クライアントのコンテンツ資産の有効活用を先の先まで考えた提案ということですね。

弓削  プロモーションをする上で長期的な視点を持つことで、クライアントと我々が互いにビジョンを共有でき、良いチーム関係が築けるためコンテンツのクオリティが上がります。もちろんイベント初日をゴールと考え、そこに向かって全力を尽くしコンテンツ制作を行います。しかしイベントがはじまってから学ぶことが多いのも事実で、現場で生のリアクションを見ながら、コンテンツの内容も改良出来るところは改良します。仮に初日に思ったような手ごたえが得られなくても、改善を重ねていき最終日にもの凄い効果を出す事もあります。

イベントはライブなので、その場の空気感を感じながら楽しめるようにしています。

石丸  「ゴールのその先を見据える」ということを言葉にする人って珍しいです。イベント業界の人って「本番がとりあえずはじまった…よし、おしまい」的な感じの人は一定数いますが、弓削さんのお話にはイベント業の“築きの未来”を感じます。

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