[インタビュー]展示会の多様な側面を理解する – シーマ・石丸 隆 氏

本記事は2023年12月15日発行の『見本市展示会通信』912号で掲載した内容の一部をWEB版記事として転載および再編集したものです。掲載されている内容や出演者の所属企業名、肩書等は取材当時のものです。

 

 出展者や来場者、サービスプロバイダーという異なる視点から展示会を見ることは、展示会の全体像をより深く理解するのに役立つ。それぞれの視点から豊富な経験をもつシーマ・常務取締役の石丸隆氏に話を聞き、展示会出展の成功要因を探る。

●出展者として
――出展者として展示会をどのように活用していますか
 年に5回程度、定期的に出展しており、直近では「第4回大阪・関西万博開催支援EXPO」に出展しました。IP/ITプラットフォーム「KAIROS(ケイロス)」を展示し、使い方や機能の提案を行いました。またLEDディスプレイの展開にも注力しており、毎回の出展では主力製品のアピールの場として活用しています。
 展示会の魅力は、普段の営業活動の中では出会うことが難しい来場者と直接コンタクトが取れること。コロナ禍を経てさらに、Face to Faceである展示会の必要性が再認識されたと考えています。
 また、映像機材を扱う当社としては、来場者に実機やデモを見てもらえるのは意味があり、カタログ以上の情報を知れる場として貴重だと考えています。展示会場で交換する名刺は、非常に価値の高い情報ですが、私たちは名刺交換を目的とするだけでなく、出展後も継続的なコミュニケーションを取るように心がけています。

●映像のプロとして
――映像機材を使った展示でユニークな事例を教えてください
 展示会ではありませんが、以前、京都府宮津市にある元伊勢籠神社で開催された京都府域展開アートプロジェクト「もうひとつの京都 ALTERNATIVE KYOTO」で、インタラクティブインスタレーション作品「CONTROL NO CONTROL」の展示をサポートしました。神社仏閣のそばに一辺4mの立方体LEDキューブを設置するという、非日常的な空間のアート作品です。
――相当大きなサイズです
 動画などをディスプレイの1ドットごとに対応させて表示することを“ドットバイドット”といいますが、アーティスト側からは拡大したり圧縮したりせず、1ドットを解像度ぴったりに合わせることを求められました。そうでないと、アーティストが本来表現したいものが再現できず、作品として完成しないからです。LEDのサイズ感は、現場設置環境と表示解像度を妥協しない組合せによって生まれた結果です。


▲京都府宮津市・天橋立(元伊勢籠神社)で開催されたアートプロジェクト「ALTERNATIVE KYOTO 2022 」でシーマがサポートした作品「CONTROL NO CONTROL」には3.9mmピッチ屋外用LEDディスプレイが使われた。LEDディスプレイの上部にセンサーが設置され、画面に手を近づけることでインタラクティブなコンテンツが体験できる。

――技術や製品の進化についての考えをお聞かせください
 機材の目まぐるしい進化の中で、特筆すべきは軽量化とコンパクト化。軽く小さくなることで、運搬したり設置したりする我々の作業負担が軽減することはもちろんですが、設置できる場所や使い方が増えることで演出の自由度も上がったといえます。例えば、LEDディスプレイは、以前より天井から吊ることも、床に設置することもできましたが、今ではより薄くなり、曲げることもできます。機材そのものの高性能化は今後も進んでいくので、コンテンツの最適な組合せと多様化が期待できます。
 また、その進化に伴って機材オペレーターの一人の対応領域が広がっています。従来は二人必要だった演出が、自動化やプログラムによって一人で実現できるようになったことは、省力化という観点でみると大きな恩恵です。その一方で、オペレーターに求められるスキルは高まっています。機材を使いこなせることも重要ですが、加えてコンテンツデータの扱い方にも配慮が必要になっています。このように、オペレーターの負担が増えている側面もありますし、今はオペレーター不足も喫緊の課題です。我々としてはそれらの課題解決に向けた実現性のある製品を積極的に導入したいと考えています。
――展示会でも映像機材は多く使われています
 来場者に映像を届けるサポートを行う立場として最近思うことは、機材のハイスペック化が展示ブースの意匠を潰していないかということ。昔の映像機材は映像が暗かったり、画面が小さいなどの課題がありましたが、現在はそのようなことはありません。今は逆に明る過ぎることで、来場者を疲れさせたり、本来見せたいはずの出展品が目立ちづらくなるのではないかと懸念しています。実際の現場では、機材スペックの半分の明るさで調整することさえあります。映像は視覚効果なので、押しつけがましさを感じるくらいに表現することもできますが、ブース全体のバランスに配慮して調整できるスキルや判断は必要になってくると考えています。
 私自身が来場者として展示会に行ったときにも感じますが、数分程度の映像を見て「綺麗!だけど疲れた、目が痛かった」と来場者に思わせてしまっては、せっかくの訴求映像も台無しになります。

●来場者として
――バイヤーの立場で海外の展示会にも足を運んでいるようですね
 映像業界の代表的な海外展に「Integrated Systems Europe(ISE)」や「InfoComm(インフォコム)」があります。2024年、日本映像機材レンタル協会(JVRA)という業界団体が主催する視察ツアーに私も同行します。情報収集のみならず、現地で商談や機材購入を行うこともあるため、重要な機会であると位置付けています。
 海外の展示ブース空間には来場者を満足させるホスピタリティの工夫が見受けられます。ゆっくりと商談できるスペースも日本より重要視されています。展示会のブース内で、最終的な受注決裁が行われているのではないでしょうか。
――製品選定のポイントは何でしょうか
 機能面や性能面はもちろんですが、我々の業務にとっては機動性や機材設置のしやすさが大きなポイントです。性能は優れているし、映像は美しいが、非常に重量のある製品は検討しづらい。さらに現実的な問題として、我々は機材のシステム管理やオペレーションなどはバックヤードで行いますが、そのスペースは限られています。そのため、機材設置面での省スペース化につながる製品は選びやすいです。基本的には、機材の軽量・コンパクトという特徴はプラス要素でしかありません。
 さらに付け加えるなら「映像技術の未来」を感じられる製品に対しては心が躍ります。日々、新製品のテクノロジーには驚かされますし、今後も止まることなく進化を続ける分野だと期待しています。

●シーマとして
――シーマや業界の今後の展望をお願いします

 近年、コロナ禍による業界全体の困難を経験しましたが、当社はこれを機に時代の流れに沿って、新しいフェーズへの移行を進めています。MICE関連事業の映像分野における機器レンタルやシステム運用、オペレーション、常設設備の機器提案、設計、施工、保守、販売、さらにコンテンツ制作やシステムプログラム事業と幅広く展開する中で、機材の価格高騰や人件費の上昇、人材不足、働き方の見直しなど、乗り越えるべき課題も多く存在しています。
 しかしながら、映像機材に関連する業界は今後も成長を続けるものと認識しています。これまでの歴史を振り返ってみても衰退期はなかったのではないでしょうか。大型映像はますます多様性を増しており、国内外の通信環境の整備とともに、IP化の潮流が映像業界に新たな可能性をもたらしてくれます。2025年の大阪・関西万博に向けて、大阪に本社を置く当社としましても、しっかりと向き合い取り組んでいきます。今後も「人を育てて、学び、成長する」をスローガンに事業拡大に邁進します。