万国博覧会・国際博覧会を知ろう② 寄稿・桜井 悌司(元ジェトロ監事・展示事業部長)

万博・国際博はビジネスに繋がるか?
展示会・見本市と言えば、「商談の場」というイメージがすぐに浮かぶ。一方国際博覧会の場は「ビジネスの場」になるのであろうか? 会期前には、全体デザインの設計、パビリオンの設計・建設、展示装飾、アテンダント・通訳の雇用、会場・パビリオンのメインテナンス業務、警備・清掃、催事、広報業務等多くの業務が発生する。会期中も継続業務としての業務が発生する。
多くの人は、会期が始まると展示会・見本市と同様にビジネスに繋がると考えがちであるが、必ずしも当てはまらない。なぜなら、展示会・見本市は、「ビジネスの場」であるが、博覧会は「楽しむ場」であるからだ。海外の多くのビジネスマンにとって、博覧会は「ビジネスの場」ではない。大阪・関西万博でビジネスを創出させようとすれば、近くに位置するインテックス大阪と協力し、同会場で既存の展示会・見本市を拡充して実施し、内外から多数のバイヤーを招くという方法が考えられる。また新規に展示会を作り上げるとともに、ドバイ万博が行ったような博覧会に相応するテーマで、ビジネスに繋がるようなシンポジウム・フォーラムを立ち上げるという方法も考えられる。また公式参加国から訪日する経済・ビジネス・ミッションがあれば、受け入れ側でビジネスマッチングを行うというオファーをするのも一案である。いずれにせよ、主催者の何らかの創意工夫や仕掛けが必要となるのである。

万博・国際博を見学して記憶に残っていることは何か?
筆者にとって、70年大阪万博は初めての万博であった。オープニング前に1週間ほど広報の手伝いで会場に滞在した。その後米国の著名ジャーナリストの随行で会場を見学した。振り返ってみて、今だ記憶鮮明なものは、岡本太郎の太陽の塔、米国館の月の石、ソ連館の宇宙関連機器の展示であった。愛・地球博ではマンモスである。92年セビリャ万博以降、ドバイ万博を除き、すべての国際博覧会を見学したが、あまり記憶に浮かばないのが現状である。
たぶん、これは筆者だけのことではなく、多くの人々も同じ経験をされているものと推測する。その理由は、万博・国際博はお祭りであり、細目にこだわるのではなく、雰囲気を楽しむものであるからであろう。大部分の来場者にとって、1日だけの見学であり、じっくり見るよりできるだけ多くのパビリオンを見学し、会場の雰囲気を味わい、自分も博覧会に来たという実感を持ちたいからであろう。パビリオンを作り上げる人とパビリオンを見学する人とは、関心のポイントや度合いに大きな差がある。作り上げる人は、コンセプトや表現方法を重視する。来場者に可能な限り、詳細に紹介したいと考える。それゆえ、詳細な説明文を入れ、自分の考えを強くアピールしたいと考える。一方、見学する人は、わざわざ万博に来たからには、多くのパビリオンを駆け巡りたいので、1つのパビリオンや場所に長く留まる余裕がないし、細かいことに関心を示さない。
そこで、作り上げる人が考えなくてはならないのは、詳細な説明はやめることであろう。高齢化社会の日本では、視力が衰えた人も多く存在することも忘れてはならない。また仮に何かをアピールしたい場合でも、「課題解決型」のような押し付けではなく、そこはかと見学者にわからせるようなローキー・アプローチ的工夫が必要なのである。また日本人だけがよくわかるようなストーリーの展開も勧められない。もちろん。作り上げる人やパビリオンの発注者は、パビリオンの大義名分的説明が必要であり、それを主張しないと自分の案が通らないことは理解できるが、多くの万博見学者のメンタリティや関心も考慮し、バランスのあるプレゼンテーションを行うようにしたいものである。

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