「東京パラリンピック」に向けて産業界ができることテーマにシンポジウム開催

2月25日、東京・豊島区の自由学園明日館講堂で「ADシンポジウム2014」が開催された。

異なる業界団体が集まりアクセシブルデザイン(AD)・福祉用具関連の調査、開発、標準化、普及、国際化等の事業について情報共有を行なっているアクセシブルデザイン協議会では、毎年社会情勢に合わせてテーマを決め、シンポジウムを行なっている。

今回は、2020年に東京で開催されることが決まった『東京パラリンピック』に向けて、産業界が取り組めること、をテーマに基調講演を含む4つの講演を展開した。

 

 

 

【基調講演】「東京パラリンピック2020」開催に向けて、産業界に期待すること

基調講演には、日本パラリンピック委員会委員長で(公財)日本障害者スポーツ協会会長を務める鳥原光憲さんが登壇。IOC委員会が視察に訪れた際にも解説したという「日本の障がい者スポーツの将来像(ビジョン)」(日本障害者スポーツ協会作成)の冊子を紹介し、“「活力ある共生社会の創造」を目指す”とする基本理念にたった2020年、2030年に向けた長期的目標について説明した。また、1960年に第1回大会と位置づけられたパラリンピックの歴史をさらに遡って紐解くとともに、前回のロンドンパラリンピックが164か国・地域から4,237人の過去最大規模で開催され、チケット販売も278万枚が完売するなど成長したこと、「パラリンピックがオリンピック、FIFAワールドカップに次ぐ世界に3番目に大きなスポーツ・イベント」であることを伝えた。そして、東京パラリンピックでは、さらなる発展をとげたいとし、パラリンピックの基本的レガシー(1)スポーツ施設や都市全体のインクルーシブな社会基盤(インフラ)、(2)障がい者スポーツの発展、(3)社会的認知における個々人の意識改革と障がい者の自尊心の向上、(4)社会生活に完全にインクルーシブなものにする多様な機会、の4つを紹介。鳥原さんは「レガシーを実現し、2020東京パラリンピック成功のためには、企業が先頭に立つことが大事」と強調した。

【講演】スポーツの力、可能性への挑戦
続いて、根木慎志さんが「スポーツの力、可能性への挑戦」と題し講演した。根木さんは、車椅子バスケットボール選手として2000年のシドニーパラリンピックに日本代表チームキャプテンとして出場。現在は日本パラリンピック委員会運営委員で日本パラリンピアンズ協会副会長、アスリートネットワーク理事も務め車椅子バスケットボールの普及広報活動を続けている。東京オリンピック・パラリンピックの招致活動にも尽力し、約2年間で200校を訪問して、車椅子バスケットを知ってもらったという。
根木さんは、高校三年生時に突然の交通事故により脊髄を損傷。以後車いすの生活を余儀なくされたが、その当時は「自分が障がい者になったことに対して、マイナスのことしか考えられなかった」とし、それは社会がそうだったからかもしれないと話す。しかし、車椅子バスケットをする選手たちをみた瞬間に、180度意識が変わった、とスポーツに出会って人生が大きく変わった自身の体験を伝えた。講演では、冒頭にオリンピック・パラリンピックの動画を紹介。その後、「本来、スポーツって何?」という根本的な問いかけをした根木さんは、さいごにも動画でスポーツ選手たちの姿を伝え、「何か感じたことがあれば、一人でも多くのひとたちにスポーツの価値を伝えてほしい。そしてシンポジウムのなかだけでなく、帰ってから家や教室やオフィスで『パラリンピックってすごいよね』といったような会話が生まれたらうれしい、大会にもみにきてください」と締めくくった。

 

【講演】障がい者のスポーツ、発展に向けての『心づくり、人づくり、環境づくり』
次に登壇したのは、(公財)日本障害者スポーツ協会の理事で日本パラリンピック委員会運営委員の大久保春美さん。主に埼玉県総合リハビリテーションセンターで障がい者の健康増進施設の実務責任者に携わり、指導してきた立場から「パラリンピックへの取組みもそうですが、障がい者であっても地域で気軽にスポーツができるといい」という思いを伝え、今回のテーマを『心づくり、人づくり、環境づくり』としたと説明した。大久保さんはまず、リハビリセンターの利用者にアンケートをとると、帰宅後にしたスポーツとして、ほとんどが散歩と回答することを紹介。センターでは卓球や水泳、その他さまざまな種目のスポーツをリハビリで指導するものの、各地域に対応できるところが少ない実情を伝えた。また、東京オリンピック・パラリンピックの招致活動を振り返り、2016年招致のときには「東京オリンピック招致」と省略されていたが、さまざまな活動の結果、2020年時には「東京オリンピック・パラリンピック招致」と言われるようになり、少しずつ社会が動いてきた実感がある、と伝えた。
講演では、まず2001年にWHOが採択した「生活機能低下」が「障がい」とする新しい概念を紹介。また、心身機能・構造にみる障がいの概要、障がい者のスポーツからみる日本の時代変化、世界情勢についても解説した。ひるがえって日本の障がい者スポーツはひとや技術の高さに支えられ、重度障がい者や高齢障がい者が活躍できる時代になったことを、バンクーバーパラリンピックに車いすカーリングの種目に出場した75歳の選手の例からも紹介。ルールの変更などの発想や用具の工夫によって競技者の広がりはでてきていることを示した。大久保さんはさいごに、まだ障がい者を知らないことによる『思い込み』が広がりを防いでいることにも言及し、「パラリンピックに向けての準備としては、心づくり、人づくりの段階、まずは接することからはじめてほしい」として環境づくりへの支援を求めた。

 

【講演】東京都が目指す2020年東京パラリンピック
さいごに登壇した澤崎道男さんは東京都オリンピック・パラリンピック準備局大会準備部の施設輸送計画課長として「東京都が目指す2020年東京パラリンピック」について講演した。東京オリンピックは2020年7月24日から8月9日、28競技を37会場で開催。そして東京パラリンピックは8月25日から9月6日、22競技20会場で開催する予定であることを説明。競技数が今年秋に追加になる可能性もあるが、障がいクラスによって種目がわかれるパラリンピックは、オリンピックの約300に比べ500種となることなど概要を解説した。パラリンピックは基本的なコンセプトとして、オリンピックから引き続く60日間の一つの祭典として実施される。また会場の配置は、95%の競技会場を選手村から半径8km県内に配置し、オリンピック以上にコンパクトな大会であること、大会運営についても、選手村、競技会場、輸送等に関してオリンピックと同等のサービスを提供することなどを伝えた。東京都が掲げる2020年大会のレガシーとしては、スポーツ面で「障がい者スポーツの振興」、社会面では「障がい者への理解の促進」「高齢者・外国人等を含むすべての人々に対する理解」、インフラ面での「バリアフリー、ユニバーサルデザインの徹底」を挙げ、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催によって『スポーツ都市東京』そして『ユニバーサルデザイン都市東京』を実現するとまとめた。

 

 

その後、シンポジウムでは(公財)共用品推進機構が「旅行に関するよかったこと調査」の概要を発表した。これは、調査事業として同機構が行なってきた活動の一環で、旅行に特化して調査したのははじめてのもの。旅行に関して「交通機関」「宿泊施設」「レストラン、食事処」「その他(観光・予約・団体旅行)」のカテゴリーごとによかったと感じた対応や設備をまとめている。調査報告は、同機構webサイトで4月から公開される。