座談会「ビジュアル空間をつくるプロフェッショナルのシゴト」その4  ~展示会とMICEアーカイブス~

日本映像機材レンタル協会 & ピーオーピー合同企画

座談会「ビジュアル空間をつくるプロフェッショナルのシゴト」 その4

(『見本市展示会通信』2011年11月15日付号掲載の座談会を再録しました)

震災、若いチカラ…
映像に何ができるか

中田 ここまでみなさまの仕事を取り巻くいろいろなテーマについてお話しいただきましたが、この魅力的なビジュアル演出の世界が、今後どういう変わっていくのか。また、みなさまはどんな役割を果たしていくのか、いきたいのかということをお話しいただきたいと思います。

長崎 地震のあと、ほとんど仕事がない状態のなかで考えたことは、これまでわれわれは、集まった人のためとか、人を集めるための仕掛けづくりを仕事としてきたけど、人を集めなくても情報が伝えられ、人と人が出会えるようなことをつくっていかなければならないのかなと。
それは中継とか、もっと言うとバーチャルな何かかもしれないですし、そんなところにニーズや可能性があるのではないかと考えたんです。そして、そのために 必要なものは、もともと私たち展示会とかビジネス向けの映像っていうのは、全体の市場から見るとニッチな市場だと思うんで、おそらく既製品のなかにはない だろうと。であれば自分たちでプログラムを開発しなければならないですよね。
そういったソフトウエアつくるということに重点を置かなければいけないと考えています。当然、求める人材もそういうことに強い人となりますので、人の選び方も地震の前と後でちょっと変わったと思ってます。

中田 小島さんとマックレイはどういうものを目指しているのでしょうか。

小島  長崎さんがおっしゃる通りで、震災はわれわれに考え方を少し変えさせたなと思います。余談ですけど、テープが手に入らなくなったとか、通信が使えなくなっ たとかいろいろありました。画像データをファイル化したことで、制作フローがまったく変わっていったとか、副産物もありましたが、あの地震が何かを変え たっていうのは確かにあります。
そこで私が考えたことは、自ら業態を変化させることを、少しずつ、しかしいつでもできるような、そういう状態をつくっておきたいなと。だからトライアルは いつもやっておきたい。「もうちょっとウェブのほうに注力していこう」と言えば、すぐにそっちへ傾いて行けるチーム態勢を意識的につくらなければいけない と思っています。
そういう視点からすれば、事業部を越えて目的のために進んでいく部署が、もっとたくさんできるのではないだろうかと。駄目なら止めればよくて、今後必要に なっていくものについてはどんどん伸ばしていければいい。会社としてもそこへの投資は惜しまずやっていこうこと考えてます。

中田 そういう考えって5年前、10年前はなかったものですか。

小島  なかったですね。きょうここでみなさんと話してきたように、世代交代とかいろいろあると思うんですけど、ビジュアルの世界にいろいろな技術革新や変化が あって、それに従って求める必要な人材も変わってきますし、これまでの考え方ややり方では生き残りすらできないと、会社が本気で考えているからです。
それで弊社では部署ごとに、それぞれの部長たちがいろんなことにトライしろと、そういうアクションをどんどん起こしていけという動きになっています。
われわれの世界はこれからもどんどん変化が起きる。だから自分たちで考えて、映像にプラスアルファの技術をぶつけることで、新しいコトを仕掛けたいなと。

中田 大変なことですよね。いつも世の中を見回しながら─

小島 お金の匂いがするところに行かなくちゃいけないですから。

中田 (笑)
博展さんは映像に関わる関わらないに関わらず、今後の方向性っていうのは。

  最近、いくつかの国の大学生と一緒にイベントの仕事をする機会があったんです。そのときに感じたことは、彼ら、彼女たちはいろんなチャレンジをしたいと意 欲的なんですね。映像機器なんかも使ってコトづくりを体感したいと。でも自分たちだけでやろうとすれば、機材一個借りるのも高いんですね、学生からしてみ たら。そこでもっとメーカーやみなさんのような立場の方が彼らをサポートしてくれたらなあと。
海外の大学生は、国やメーカーからの支援を受けて、ビジネスというものを体感してるんです。だから日本の学生たちにも、例えばプロジェクタ1台でも彼らにはとても高価で、使える喜びを感じられるんです。
もしかしたらそこでものすごい何かと出合って、将来イベントやMICEの道を志すかもしれない。その子がお客さんになったり私たちの仲間になったりするか もしれない。日本を代表するような素晴らしいクリエイターやビジネスマンが生まれるかもしれないっていう可能性を想像すると、こうした裾野に投資するこ とって、とても価値のあることだと思ったんです。ちょっと生意気なことなんですけど、映像という仕事を通して感じたことですね。

本物が持つオーラを
たくさん見てほしい

中田 長崎さん、いかがでしょうか、いまの話。

長崎  正しくそうだと思います。われわれも、学生に安い値段でプロジェクタを提供して使ってもらうという支援をしたことがあります。で、彼らの現場に行くと、 小っちゃなプロジェクタを5、6台使って、見た目すごくおもしろいことしてるんですよ。予算がない分、普段使えなかった分、アイデアだけで勝負してるんで すよね。

中田 そうなるんでしょうね。

長崎 そうなるんです。そういう経験を通して、将来有望なクリエイターが育っていくんだろうなと。われわれみたいな立場の者がそういった支援をすれば、鷲さんがおっしゃる通り、業界の将来も明るい方向に変わっていくと思いますね。
ほんとに勉強になりますよ。こんなアイデアでこんな使い方するんだって。ウチのスタッフが見たら「これじゃプロジェクタ潰れるよ」とか言ってましたけど(笑)。それでもいいんですよ、おもしろければ。

中田 やりたいことができるのも学生のうち、なんて言うと意地悪ですが、自由な発想は大切に育てたいですよね。

小島  そう、われわれイベント屋の醍醐味としては「どうしてこういう演出をしたの?」って聞かれたら「やりたかったから」としか答えようがないときもあるんです よ。その間にいろんな情報を自分で処理して、カネのこととかも計算してるんだろうけど、感性のままに説明できないことをやってしまうこともある。でも、そ れがお客さんのニーズとも演出家の意向とも合致していれば、やりたかったことも実現するよってことになる。

中田 戸村さん、「よくわかる」といった感じですね。

戸村  やっぱり学生とプロってそこが大きく違うじゃないですか。やりたいことだけ好きにやるんだったら、それはアーティスト。われわれはクリエイターではあって もアーティストではないので。いいものにするための折り合いを見つけることも、映像屋の資質だと思います。これを妥協とは言わない。これができるのがプロ なんだろうなと。
こういうプロの資質が備わっている人でないと、先ほどの小島さんの話のように「やりたかったから」とは答えられないですよ。われわれは、そういう人材を育 てなければいけないのですが、ひとつ大切だと思うことは、プロの映像屋には、いろいろな世界の本質的にいいモノを見てほしいと。これまでにないものを求め たり、とんがったものを要求するってことは、一見、常識はずれなところに行きがちなんですけど、本物が放つオーラを知っていれば、ブレることってないと思 うんです。本物をわかってるから非常識なことができるがわけであって、そこすごく重要だと思います。私最近、そういうこと言ってるな、スタッフに(笑)。

中田 貴重なお話しをたくさん聞かせていただきました。みなさん、ありがとうございます
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その1  ビジュアルの比重増す展示会での空間づくり
その2  リアルとバーチャルいかに使いこなすか / 機材の進化が生む新しい映像の世界
その3  業種を超えた交流で互いをスキルアップ / 現場に立ちはだかる様々な規制の厳しさ