【座談会】新型コロナがもたらしたイベント映像の環境変化と問われる対応力

全国的な配信需要増と抱える課題

西 会員企業の皆さんの近況を教えてください。

占部 配信の仕事と関わる中で、われわれの技術や知見が活かされることが増えてきたと感じます。それと同時に、従来のイベントでは代理店や制作サイドが行っていた開催準備や開催後の仕事の部分をわれわれが担うことが意外にあります。クライアントから直接問合せがあることも多いです。

石丸 光響社さんは配信への取り組みのスタートが早かったように思います。

占部 当社の主な拠点である名古屋は、東京に比べると何かと遅れているような気もしますが、それでもコロナ前である2019年の時点でもイベントにあわせて配信したいと考える人は結構いました。そのため、配信業務の一連の流れは把握していました。

菊地 仙台のようすはどうですか。

渡辺 オンライン配信やハイブリッドで行う学会も増えてきました。これまではPCO経由の仕事だったものが、先ほどの占部さんのお話同様に、直接、事務局から依頼されることも増えましたね。配信業務だけでなく、その前後。例えばホームページ立ち上げやオンデマンドの対応、視聴者レポートの作成まで求められるようになってきていて。今までのハード(機材)レンタル現場の仕事というイメージから少し変わってきています。一方で、配信の仕事は増えましたが、イベントそのものが小規模化している現実もあります。今後はコンテンツにも対応していければならないと感じています。

田上 九州も皆さんと同じような状況です。今やれることをクライアントと模索し一緒に作り上げていくことでより関係性が深まったと思います。
そのような中、去年の8月頃、東京のクライアントから「配信イベントをやりたいが、その期間、東京と大阪のオペレーターが忙しくていないので対応してほしい」と言われました。その頃から、当社のスタッフも全国出張の機会が増え、同時にスキルアップにつながりました。

西 配信の仕事は通常の案件より、オペレーターの人数が必要で、多くのスタッフで管理するという事ですね。

石丸 5割増しとか、聞きますね。ところで、ライブ配信をしていると通信トラブルが発生することもあるかと思いますが、そのあたりはどのように対応されていますか。

田上 当社ではマルチSIMルーターを導入し、バックアップに対応しています。そのバックアップ回線の有無が直接売上につながるかどうかはさておき、バックアップ回線があるという体制はクライアントの安心感につながります。それを一言伝えられるかどうかで印象は随分変わると思います。

占部 私が関わっている現場では「YouTube」「vimeo」などのストリーミングサービスを使うこともありますが、バックアップが取れていないのが現状です。自分自身、バックアップに対する考え方が整理できていないこともありますが、例えばバックアップのために「YouTube」「vimeo」の同時配信を行う場合、配信ソフトが入っているパソコンが2台必要になり、それはつまりオペレーターも2人必要になるということ? と考えてしまいます。

西 正直、当社でも配信時の作業は何もしていないけどシステムを監視しているオペレーターが何人もいます。今(本パネルディスカッション)もそういった状態です。

占部 また今年「YouTube」でシステム障害もありましたが、その際は半日ログインすらできない状態だったようです。そのようなタイミングで1000人規模の配信イベントを予定していた場合はどう対応すればいいのか。

石丸 そうなることを回避するには、映像配信会社が独自にサーバーを確立させて、配信ができるようにクラウドに持っていく必要がありますね。実際には、そこまでする必要があるのかどうかをクライアントと協議することになりますが、われわれとしてはそういったスキームを提示できるようにしておかなくてはなりませんね。バックアップの話は、どの会社も共通の悩みだと思います。

 

コロナ禍で進むxR

西 ここからはxRについて話を伺っていきます。学術会議のようなイベントにおいても導入の話はあるようですね。実現するためのハードルは高いかもしれませんが。

石丸 xRを見せられるとすごいと感じるが、ビジネスとして導入するかを決定するにはまだ少し時間がかかりそうです。われわれのような提供側も、今までの仕事以上にどんどん人が投入されるので、一気に環境をつくることも難しい。人材の確保についても、映像オペレーターではなくネットワークオペレーターのような人が必要な仕事になるのではないでしょうか。

西 そうですね。コロナ禍で時間的な余裕があったからやれた部分はありますね。今後、コロナ前の状況にどの程度まで戻るのかは分かりませんが、以前の状況に戻った時にxRの準備をゆっくりする事はできないでしょう。

 今はイベント減に伴い、LEDディスプレイを使用する機会が減ったため、もっと動いてくれるといいなと思います。撮影の背景で高精細のLEDが動くことが、各社が期待するところだと思います。

西 われわれにとっては、LEDをうまく使うためのひとつの案としてxRがあると言っても過言ではありません。LEDの使い道を探った結果というか。

松原 当社も機材が倉庫に余っていたから組んでみたというのが実情です。結果的に機材の研究は進みました。
各社が使うメディアサーバーは「ディスガイズ」に集中している気もしますが、センシングやトラッキングに関しては「レッドスパイ」「FreeD(フリーディー)」。レンダリングは「NOTCH(ノッチ)」「TouchDesigner(タッチデザイナー)」「Unreal(アンリアル)」「Unity(ユニティー)」など、各社いろいろと研究されていると思います。

 

スイッチャーの進化がもたらすもの

西 IPスイッチャーについて皆さんのご意見をお聞かせください。個人的には1人のオペレーターの負担が大きくなる点と、その機械が止まってしまうとイベント自体が成り立たないリスクという点から、オールインワンのスイッチャーはあまり好きではないのですが。またIP系の機器はベースバンド機器とは違って操作やプログラム量によって負荷がかかる。そういった不安についてはどうでしょうか。

新井 どこかの現場で固まったという噂も聞くので、私も当初は消極的だったのですが、エフェクトや機能が標準で良いものがあるため、当社でも導入しました。オペレーターの負担については、操作する人が「ここまでしか使わない」と決めて管理するようにしていますね。

石丸 もちろんハイパフォーマンスのシステムのIPスイッチャーだけではなく、ミドルやローエンドに位置する製品も多くあります。そのような中でも、今後われわれが配信やクラウドを使った新しいサービスを提供していくのであれば、従来の商材では対応できない部分も出てくるでしょう。逆に使いこなす前提で動けば、選択肢や提案の幅が広がります。

 例えば、IPスイッチャーの発展で、自社の倉庫にオペ卓があって、それが遠隔地の会場の機材とつながる。それによって設置の時間も現場の撤去時間もすごく短縮できます。それはクライアント側のメリットにもなり得ますが、それが結果的に僕らの睡眠時間を増やすことにつながるかもしれませんね(笑)

 


日本映像機材レンタル協会(JVRA)
http://www.jvra.net/